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ローソン、アスクルが現場の課題解決のAI活用で気付いた“実際に動く仕組み”の大切さ

Googleの小売業特化イベント「Google Inside Retail」から

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2019年9月18日

AI(人工知能)のビジネス現場への活用が、さまざまな業界で始まっている。小売業界も、その1つ。無人店舗やコンタクトセンターといった顧客接点や、商品を届ける物流現場など、適用先も多岐にわたる。そうした中、ローソンとアスクルにおける先端技術の担当者が、東京で2019年7月に開かれた小売業界特化の技術者向けイベント「Google Inside Retail」(主催:Google Japan。Google Next内で開催)に登壇し、取り組み内容を説明した。両者の共通点は「UI(ユーザーインタフェース)」を含め実際に動く仕組みの重要性である。

ローソン:顧客の質問を音声認識でどの棚にあるかを回答する仕組みを試作

 ローソンは、新しいコンビニのあり方に向けてデジタルテクノロジーの活用に積極的に取り組んでいる一社(関連記事『ローソンの竹増 貞信 社長 「店頭での触れ合いや暖かさこそが強み、デジタルでバックヤードを大改革する」』)。RFID(ICタグ)を用いた商品管理や、自然言語解析を用いた業務改善施策などだ。

 これらの実用化に向けた研究に取り組むのが、ローソンデジタルイノベーションのオープンイノベーションラボだ。同ラボ室長 兼 エンジニアの山本 達也 氏は今回、音声認識を使った試作システムを紹介した(写真1)。

写真1:ローソンデジタルイノベーションのオープンイノベーションラボ・ラボ室長 兼 エンジニアの山本 達也 氏

 山本氏が試作したのは、顧客が探している商品が店内のどの棚にあるかを答えるためのシステム。店舗のスタッフは、接客以外に在庫数の確認など複数の業務をこなしおり、顧客から質問を受ければ、作業を中断しなければならない。試作システムがあれば「自動応答により業務の効率化が図れるだけでなく、顧客もスタッフには直接聞きづらい商品の場所を知ることができる」(山本氏)ことになる。

 最初は、AIスピーカーに音声で「○○はどこ?」と聞くと、Google Cloud Platform(GCP)上の自然言語認識エンジンによって商品名を判別し、データベースに登録した陳列データを検索した結果を、LINEのメッセージとして返す仕組みを開発した。

 「学習済みのAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を使って、経営者とエンジニアの双方がAIという仕組みに触れるのが目的だった」(山本氏)という、このシステムは狙い通りに動作した。だが経営者の関心は得られなかった。「並行して複数のデモアプリを開発しており、他のアプリに関心が集中してしまった」(同)からだ。

 その理由を山本氏は、「アウトプットが『スマホにテキストを表示する』という一般的な検索システムと類似していたため、経営層にすれば、そのアプリを実際に店舗に導入する際は、どのように使うのかがイメージしづらかったためだ」と分析する。

 そこで次バージョンでは、質問への返答を、店内の棚の配置図に重ねて表示する形に変更した。すると社内の評価は一変してよくなったという。ここから山本氏は、「特にUIについては、試作段階であっても専用に考慮した仕組みを作らなければならないことがわかった」と語る。

経営の期待とエンジニアのゴールにギャップがある

 山本氏は、「経営者とエンジニアの間にはAIに期待する役割にギャップがある」と指摘する。「経営者は、時代や技術の進歩から取り残されたくないという思いから『AIの活用を前提に、どんな課題でいいので、まずは解決してみせたい』と考える。これに対しエンジニアは、『解決すべき課題が明確になっていない案件は、成功か失敗かの評価もあいまいになるため、引き受けづらい』と考えてしまう」(同)というものだ。

 プロジェクト開始後も「ゴールが不明確なままに、データの収集や高精度なモデルの作成を始めてしまうのはリスクが高い。経営者が描く壮大なゴールに対して、エンジニアが描く限定的な課題の解決策だけを示しても、その食い違いが終盤でトラブルとして表面化する」(山本氏)ともいう。

 両者のギャップを埋めるには、「経営者は、プロジェクトは一定の確率で失敗することを理解する。エンジニアは経営側が要件を明らかにするのを待つのではなく、自らが課題を設定し実際に動く仕組みをできるだけ早く作り、その内容を経営者らと検討するようにしなければいけない」と山本氏は強調する。

 なお今回説明されたシステムはあくまでも検討用の仕組みで、店舗で採用するかなどはまだ白紙の状態という。山本氏のオープンイノベーションラボでは、引き続き店頭でのAI活用の検証を進めていく計画だ。