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資生堂、人とロボットが協働する次世代ものづくりに挑戦中

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2020年3月30日

3Dプリンターで新アイデアのロボットハンドを日々試行

 掛川工場のニーズに対応できるロボットとして、最終的に選んだのは双腕ロボットの「NEXTAGE」(カワダロボティクス製)だ。決め手は「キャリブレーション(位置補正)機能の搭載と親近感のある外観」(大前氏)である。

 NEXTAGEの導入では、まずは搬送に適用した後に、口紅のフタを装着する作業への適用にチャレンジした。「搬送だけではなく、加工から外観検査までを任せたいと考えた」(大前氏)ためである。

 口紅のフタを装着する作業は「単純だが緊張する作業であり、人が作業すると苦痛に感じる工程の1つ」(大前氏)という。口紅は柔らかく、フタを誤って閉めると傷が付き不良品になるからだ。

 ただ開発には課題があった。様々な工程を試行錯誤するためロボットハンドを毎日のように製作しなければならないことである。この課題を解決したのが、当時登場してきた3Dプリンター。ロボットハンドを短時間で製作できるようになった。大前氏はそのメリットを「新しいアイデアをすぐに形にして試せるし、翌日には別の形に変えられる」と話す。

 部品を供給する機械も開発した。大前氏は「ロボットの開発よりも、部品供給の方法を考えるほうが難しかった」とする。「部品供給のプロセスのでき次第で、工程作業時間が大きく変わってくる」(同)ためだ。

 同作業では、ロボットと人の配置にも工夫を施した。口紅のフタかけ作業では、ロボットと人が同時に同じ作業をすることがある。そのため人とロボットが隣り合わせにあると双方が干渉し安全性が損なわれる。現在は「人のいる場所とロボットのいる場所を分けている」(大前氏)。

 部品供給装置を含め、種々の仕組みを内製できた理由を大前氏は、「ロボットを現場に入れる前に、その動きやツールを技術者が自由に検証できる“遊びの場”を用意できたことが大きかった」と語る。

開発部門と現場の協力体制が重要

 これらの経験を振り返り大前氏は「生産現場のロボット化を進めるうえで重要なことがある」と指摘する。それは「本社の開発部門と工場の設計部門が互いの役割を理解し協力し合える体制を作れるかどうか」(同)だ。

 資生堂では、本社開発部門が新技術やパートナーの探索、要素技術の開発、要素技術組み合わせるによるモデル設計を担当。工場の設計部門は、現場課題の提起や信頼性の向上、ロボット作業改善を担当した。

 さらに最近は「ロボットを前提とした作業改善が図れる人材として、ロボットの知識はあるが化粧品の知識を持たない新卒を登用している」(大前氏)。「熟練者は、双腕ロボットを見ると人間と同じ動きをさせようとしてしまう。人とロボットの協働は、我々にとってパラダイムチェンジだ。既成概念にとらわれない自由な発想をするために思い切った」と大前氏は熱く語る。

 もちろん、こうした人材の登用法に対して、現場の責任者からは異論もあった。それも成功体験を積み重ねることで、「今では、ほぼ定着している」(大前氏)という。

 今後は、「ロボットやセンサーから得られるデータを収集し、ロボットと人が自動的に最適なバランスで作業できる仕組みをAI(人工知能)を駆使して作ることにチャレンジしたい」と大前氏は語る。人とロボットが協働する次世代ものづくりに向けた資生堂のチャレンジは、まだ終わらない。