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マイクロソフトを卒業した「りんな」が目指す“多様で共感できるAIキャラクター”がいる世界

野々下 裕子(ITジャーナリスト)
2020年8月26日

AIがインタラクションに変革を起こした

 りんなは、これまで、米マイクロソフトの開発部門であるAI&リサーチで開発されてきた。それが2020年6月、事業分離され、開発チームがそのまま独立する形で「rinna株式会社」が設立された。

 rinnaは、研究開発やキャラクターの管理運営のすべてを引き継ぐ。日本や中国などアジアを中心に、各国の文化や市場にあわせたイノベーションとビジネスを推進し、要望が強いキャラクター開発サービスを拡大するのが目的だ。りんなのキャラクターイメージも一新された。後ろ姿だけだったものが、正面向きで口元が描かれるようになった。

 rinnaの代表取締役社長には、開発チームを率いてきたジャン“クリフ”チェン氏が就任。会長には、2020年2月にマイクロソフトを退社したばかりのハリー・シャム氏が就いた。坪井氏は、新会社の「チーフりんなオフィサー」である。

 シャム氏は、Microsoft Researchの中心人物として、マイクロソフトの検索エンジン「Bing(ビング)」やAIアシスタント「Cortana(コルタナ)」を手掛けてきた。同氏は、「AIの登場でインタラクションは変革した。人対AIのインタラクションのモデル構築はビジネスとして大きなチャンスがある。将来は、もっと多くのAIが我々を取り囲む未来を想定している」と語る(図3)。

図3:AIによるインタラクションの変化

 同氏によれば、人対人のインタラクションは社会的コネクションや人間関係、信頼性を醸造するもの。人対コンピュータのインタラクションは高い同時性で広範囲な情報をプッシュするもの。両者のいいとこ取りをしたのが、人対AIのインタラクションであり、同氏は「そのコア技術を過去6年間、マイクロソフトで研究してきた」とする。

 その研究は、マイクロソフトが提唱する会話プラットフォーム「Conversation as a Platform」に位置付けられている。そこから、自律的な対応ができるチャットボットのためのコグニティブ技術として開発されたのが「Microsoft Cognitive Services」であり、同サービスを利用して日本で誕生したのが、りんなである。

数年後には10万キャラクターを生み出す

 rinnaの経営ビジョンについてチェン氏は、「すべての組織と、すべての人にAIキャラクターを」を掲げる。そのうえで「対等・多様・信頼の3つをカルチャーに、プロダクトでも、これら3つにこだわっていく」と説明した。

 その実現にはビジネスが重要だとし、研究部門、開発部門に加え、ビジネス部門を設立し、キャラクターとマーケティングの2つのソリューションを提供する。AIの研究については、「マイクロソフト時代と同様に、論文の発表や大学との連携にも力入れる」(チェン氏)とする。

 ビジネス的には、まずはAIキャラクターが文化的に受け入れられやすい日本や中国など、アジア市場向けから展開する。すでに、りんなは中国では「Xiaoice(シャオワイス)」、インドネシアでは「Rinna」という名前で展開されている。rinnaは、こうしたローカル向けの開発に力を入れる。

 そのために「新しいアバターフレームワークを開発していく」とチェン氏は説明する(図4)。同フレームワークは、(1)人=五感とインタラクション、(2)世界=コンテンツとサービス、(3)展開場所の3要素からなる。新会社では、それぞれの管理や運営に力を入れる考えだ。

図4:rinnaが開発する「アバターフレームワーク」の概念

 これらの取り組みにより、数年後を目処に社員数は現在の約20人を5〜6倍に増やし、対応できる企業数は60〜100社まで増やすのが目標だ。1企業当たりのキャラクター数も増やし、「全体で10万ほどのキャラクターを誕生させたい」とチェン氏は意欲を見せる。

ニューノーマル下の新しいコミュニケーションスタイルになるか?

 AIキャラクターを開発するビジネスは、数年前から世界で拡大している。実在する人物かのようなキャラクターを生成する技術も登場するなど、AIキャラクタービジネスは競争も激しくなっている。rinnaの設立は、独立によって開発スピードを高め、市場ニーズに細やかに対応できる体制づくりが狙いだと見られる。

 一方でAIキャラクターには、ディープフェイクに悪用されるのではないかと危惧する声もある。ただ、そうした意見がアジア市場は比較的少ないだけに、そこからビジネスを開始しようとするシャム氏の方針には、うなづけるものがある。とはいえ、キャラクター文化が強い日本でも、AIキャラクターのビジネス活用は始まったばかり。AIキャラクターが、どこまで受け入れられるのかは未知数だ。

 確かに、数多くのAIキャラクターを使って各種情報を収集できるようになれば、新たな共感マーケティングのヒントが探り出せる可能性はある。上手くいけば、人と人のダイレクトなつながりが難しくなってきたニューノーマル(新しい日常)下では、新しいコミュニケーションの形になるかもしれない。