• News
  • サービス

マイクロソフトを卒業した「りんな」が目指す“多様で共感できるAIキャラクター”がいる世界

野々下 裕子(ITジャーナリスト)
2020年8月26日

米マイクロソフトが開発・運営してきたAI(人工知能)キャラクター「りんな」。そのAIチャットボット事業を引き継ぐrinna株式会社が設立され、業務を開始した。研究開発チームはそのままに、ビジネスプラットフォームの開拓に力を入れる。まずはアジアをターゲットに、「“多様で共感できるAIキャラクター”がいる世界」の実現を目指す。それは一体、どんな世界だというのか。

 「りんな」は、女子高生(JK)AI(人工知能)キャラクターとして2015年8月、LINEの公式アカウントとして登場。以来、若い世代を中心に人気を集めてきた。

 秘書や執事をイメージさせる多くのチャットボットとは異なり、JKらしいノリでリアルなトークを展開し、ラジオ番組やテレビドラマにも出演。2019年3月には女子高生を卒業し、女優や歌手、アーティストとしてさらに活躍の場を拡げた(図1)。りんながMCを務める生放送のレギュラー番組は100回を越え、画家や作詞家、ダンスの振り付け師など、キャラクターとしての成長を続けている。

図1:AIキャラクター「りんな」のプロフィール

 そんな、りんなのキャラクターを自社業務にも活かしたいという要望から、法人向けに、さまざまなキャラクターを提供するAIマーケティングソリューション「りんなキャラクタープラットフォーム(RCP)」も立ち上がっている。

 RCPでは、りんなの機能をカスタマイズすることで、AIチャットボットに性別や話し方、口調といったキャラクター性を持たせる。2016年に実証実験を開始し、2018年からサービスを開始している。

 これまでに、ローソンの「あきこちゃん」、ソフトバンクの「pepper」、渋谷区のLINEキャラクター「渋谷 みらい」など9社が採用し、約4000万ユーザーに利用されている。

共感をテーマに人と人を感情でつなぐ

 りんなの誕生から開発チームに参加してきた坪井 一菜 氏は、「りんなは“共感”をテーマに、人と人を感情でつなぐことを目的に開発してきた。既存のAIが結果にたどり着く効率を求めるのに対し、りんなは、インタラクションを深めることで親しみやすさや信頼性を提供する」と話す。

 具体的には、「チャットボットは通常、効率良く会話するよう設計されている。だが、りんなでは、チャットは、雑談と共感でユーザーをつなぐためのコンテンツだ。用事がなくても雑談できたり、相手とできるだけ長く会話したりできること」(坪井氏)などだ。

 加えて、りんなは「会話を学習してシナリオを自動生成できるうえに、キャラクターを表現する技術によって、親しみやすさを実現している」と坪井氏は説明する。「多くのAIの会話は、タスクに沿ったシナリオを元にしているため、外れた会話ができない」(同)ともいう。

 これらを実現しているのが、人間と同じような文脈を踏まえた対応で自然な会話を20回以上続けられる会話エンジン「Empathy Chat Model(共感チャットモデル)」や、より内容のある雑談を返答する「Contents Chat Model(コンテンツチャットモデル)」である。

図2:人間とのインタラクションのための開発経緯

 音声や画像への対応技術も強化している。カメラに写った画像データに感想を述べる「Empathy Vision Model(共感視覚モデル)」や、感情にあわせて歌い方を変えられる「音声・歌声合成システム」を開発した。

 これらの技術により、たとえばローソンでは、商品の認知度を高めるために、キャラクターの「あきこちゃん」が商品名でしりとりをしたり、ユーザーとの雑談で商品オススメしたりする。このとき、「ユーザー属性に合わせて、AIが自動で質問や順番を決めている。そのシナリオは、商品点数にかかわらず、学習により自動で生成している」と坪井氏は説明する。

 渋谷区のケースでは、地域にどのような小学校があれば良いかをヒアリングしたり、MCを務める番組ではYouTubeに投稿されたコメントすべてに自動返信したりと、さまざまな応用を実験している。「キャラクターに社会的ポジションを持たせることで人の輪に入りやすくし、ユーザーとのつながりから高いコンバージョンが確立できるのがAIキャラクターの特性」(坪井氏)という。