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小田急のMaaS用戦略アプリ「EMot」、異業種連携を支える開発・実行基盤はAWS

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2020年8月28日

小田急電鉄がMaaS(Mobility as a Service)ビジネスに力を入れている。その中核ツールの1つが、自社開発するスマートフォン用アプリケーションの「EMot(エモット)」だ。AWS(Amazon Web Services)が2020年8月19日に開催したMaaSに関する記者説明会に、小田急の次世代モビリティチーム 統括リーダーである西村 潤也 氏と、MaaS技術基盤を開発しているヴァル研究所の執行役員CTO 見川 孝太 氏が登壇し、EMotの位置付けや開発経緯を説明した。

 MaaS(Mobility as a Service)は、種々の移動手段を利用者中心に一元化し提供するサービス。電車やバス、タクシーなど個々の事業者が提供するサービスを1つのアプリケーションでつなぎ、座席の予約や運賃の支払いなどを一括で済ませられるようにするほか、移動に伴って発生する宿泊や観光といった要素も取り込むことで、利用者の利便性がより高まると期待されている。

リアルな顧客接点とデジタルなサービスをアプリで融合

 そのMaaSを事業戦略の中核に位置付けるのが小田急電鉄だ。同社は2018年に、複々線化を完成させた。構想から約50年、工事着工からは約30年という時間をかけた。この間、百貨店や不動産、レジャー施設、ホテルなど事業の多角化を図ってきたが、国内の人口減少による旅客人口の減少が想定されるだけに、次の事業戦略が必要だ。

 同社の経営戦略部 次世代モビリティチーム統括リーダーの西村 潤也 氏は、「今は、悲願の複々線化を実現し、新しい小田急に生まれ変わるタイミング。既存のリアルな顧客接点と、デジタルなサービスの融合が重要だと考えてスタートしたのがMaaS用スマホアプリの『EMot』だ」と話す(写真1)。2019年10月から提供している。

写真1:小田急電鉄 経営戦略部 次世代モビリティチーム 統括リーダーの西村 潤也 氏

 EMotは、「2つの“いきかた”を提案する」と西村氏は言う。1つは「行き方」を便利にする複合経路の検索機能。目的地への移動手段を検索する際、電車だけでなく、タクシーやカーシェア、シェア自転車など複数の移動手段を組み合わせた経路検索ができる。同機能には、ヴァル研究所が開発した経路検索エンジン「ミクスウェイ」を採用している。

図1:MaaS用アプリ「EMot」が提供する2つの“いきかた”

 たとえば、経路の1つとして提示されるタクシーを選ぶと、配車サービスの「MOV」と「Japan Taxi」の金額が並んで表示される。EMotは、両配車サービスとAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)で連携しており、利用者は、いずれかのアプリを選択し配車を手配できる。

 連携するのは、配車サービスのほか、小田急グループの電車・バスはもとより、「Times」のカーシェアリングや、JAL(日本航空)やドコモバイクシェアなど、17社のサービスとの連携を発表している。

他社連携を前提に「小田急」のロゴを外す

 もう1つは「生き方」のための機能。つまり「移動することで人生を豊かにするライフスタイル(旅)の提案」(西村氏)だ。これは、モビリティとアクティビティの電子チケット連携で実現する。

 「デジタル箱根フリーパス」が、その一例。小田急沿線の観光地である箱根を周遊できる割引切符「箱根フリーパス」を電子化し、スマホで購入できるようにしたものだ。アプリから前もって購入し、出かけるときに利用者がチケットを有効化すると、その日から有効な切符として使える。

図2:EMotにおける電子チケットの購入・利用画面の例

 駅では、切符の代わりに、有効期限とアニメーションが表示されているスマホの画面を駅員に見せて改札を通過する。静岡県浜松市の遠州鉄道が提供する浜松の周遊チケットもEMotで購入できる。

 飲食サービスとの連携も可能だ。小田急グループが展開しているパンやおむすびなどのサブスクリプションサービスのチケットをスマホで購入し、店舗でQRコードを読み込ませて有効化すると、商品を受け取れる。

 西村氏は、「EMotでは、アプリの画面に小田急のロゴを入れていない。当初から他社とのサービス連携を前提に開発しているためだ」とし、今後も運輸各社や観光サービス業などとの連携を進める意向を表明した。