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小田急、データを活用し安心・快適な新モビリティライフを実現へ

「Mobility Transformation 2020 Online」より

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2020年6月2日
写真1:「Mobility Transformation 2020 Online」(主催:スマートドライブ)に登壇した小田急電鉄 経営戦略部 課長 次世代モビリティチーム統括リーダーの西村 潤也 氏(左)とスマートドライブCRO レベニュー責任者の弘中 丈巳 氏

東京・神奈川に120.5キロメートルの営業路線を持つ小田急電鉄がMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の実現に取り組んでいる。同社経営戦略部 課長で次世代モビリティチーム統括リーダーの西村 潤也 氏がオンラインセミナー「Mobility Transformation 2020 Online」(主催:スマートドライブ)に2020年4月28日に登壇し、小田急のMaaS戦略について紹介した。

 小田急電鉄は現在、東京・新宿から神奈川・小田原までの80kmを結ぶ小田原線のほか、江ノ島線や多摩線を合わせ全長120.5キロメートルの路線を持ち、1日約205万人の乗客を輸送している。

総人口の減少で鉄道事業中心では経営は厳しい

 同社が小田原線を開業したのは1957年4月。「関東大震災が起こった5年後で、まさに震災復興のタイミング。1年半という短期間に突貫工事で造った」と経営戦略部 課長で次世代モビリティチーム統括リーダーの西村 潤也 氏は話す。その後の高度成長期を経て、鉄道事業を核に住宅や店舗、レジャーなどを供給する、いわゆる「私鉄モデル」と呼ばれる多角化により事業を拡大していった(図1)。

図1:小田急電鉄は東京・神奈川圏で運輸から流通、不動産、ホテルなどを展開する

 それが、2008年をピークに総人口が減少に転じてからは、「多角的経営モデルが通用しなくなってきた。そのようなタイミングに実現したのが複々線化。それが小田急が次代へと変化していくタイミングと重なった」(西村氏)という。鉄道事業中心では、人口が減少していくなかでは経営が厳しくなる一方だ。

 これは小田急だけが抱えている課題ではない。いずれの公共交通機関も抱える課題だ。人口が減れば生産年齢人口も減少する。通勤電車の利用者数が減少するだけではなく、ドライバーも不足する。

 加えて、若者の外出率も低下している。2015年の『全国都市交通特性調査』(国土交通省)によれば、休日に一度も外出しない20代の割合は1978年の28.6%が2015年には44.5%に上昇した。「さらに5年が経っている今、『休日に一度も外出しない』と答える20代は約半数に上るのではないか」と西村氏は類推する。

 さらに、Eコマース市場の拡大や働き方改革、VR(Virtual Reality:仮想現実)旅行などデジタル化の進展は、公共交通機関にとってマイナストレンドである。

『会いたいときに、会いたい人に、会いに行ける』モビリティライフを

 一方で、高齢者の免許返納や自動車保有率の低下など「自家用車ネガティブ層」が増えるというトレンドもある。「これらのマイナストレンドに打ち勝つ需要を創出することが、当社がMaaS(Mobility as a Service)に取り組む理由だ。高齢者には自家用車以外の移動手段を、若者にはアプリケーションやサブスクリプションなどを使った新たな移動体験を提供する」と西村氏は力を込める。

 複々線化が完成した1カ月後の2018年4月に中期経営計画を発表。その中で『モビリティ×安心・快適〜新しいモビリティ・ライフをまちに〜』というスローガンを掲げた。「90年間積み上げてきた安心・快適という普遍的な価値をゆるぎない土台にしながら、これからのテクノロジーを生かして『会いたいときに、会いたい人に、会いに行ける』という新しいモビリティライフを生み出す」(西村氏)というビジョンである。

 一口にMaaSと言っても、さまざまな方向性がある。たとえば国交省は日本版MaaSの実現に向けて5つの取り組みを提示している。(1)事業者間のデータ連携、(2)運賃・料金の柔軟化、キャッシュレス化、(3)まちづくり・インフラ整備との連携、(4)新型輸送サービスの推進、(5)その他の取り組み(競争政策、人材育成、国際協調の見直しなど)だ(図2)。

図2:日本版MaaSの実現に向けた5つの取り組み(『日本版MaaSの実現に向けて』、国土交通省、2019年4月より)

 これら5つのうち小田急は、(1)事業者間のデータ連携、(2)運賃・料金の柔軟化、キャッシュレス化、(4)新型輸送サービスの推進の3つに焦点を当てる。