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AIで学習するガスセンサーが切り拓くIoTの新しい世界

システムに“嗅覚”を与えるボッシュ センサーテックの「BME688」

DIGITAL X 編集部
2021年12月21日

様々なデータを取得・分析することで、新たなビジネス/サービスの創造するIoT(モノのインターネット)への取り組みが加速している。そうした世界感を支えるのが各種センサーだ。人の五感のうち、視覚(カメラ)や聴覚(マイク)、触覚(タッチパネルなど)に続き“嗅覚”を実現するのがガスセンサーである。そんなガスセンサーにAI(人工知能)技術による学習機能を持つ製品が登場した。独ボッシュ センサーテックの「BME688」だ。学習するガスセンサーBME688はDXの世界をどう変えていくのだろうか。

 スマートフォンやウェアラブルデバイスの普及を背景に、IoT(モノのインターネット)の世界が産業分野から社会へと広がっている。体温や脈拍、血中酸素濃度といったバイタルデータや、歩数や姿勢など身体の動きを示す情報の収集が容易になってきたことで、医療や健康、あるいは見守りなど私たちの暮らしに密着する新しいクラウドサービスも多数、登場してきている。

 新しいサービスを創造するための各種データの収集を可能にしているのがセンサーだ。人の五感に相当する機能をスマホやウェアラブルデバイスに代表されるIoT機器に提供する。カメラは視覚、マイクは聴覚だ。脈拍や体温なども赤外線の反射光で測定できる。歩数や身体の動きは、位置の変化を捉える加速度センサーで測っている。タッチパネルはさながら触覚だろう。

 これらセンサーの中で“嗅覚”に当たる機能を提供するのがガスセンサーだ。身近なところでは、火災警報器やCO2(二酸化炭素)センサーなどがある。人が嗅覚で感じ取れるのは臭いの成分だが、ガスセンサーにはCO2のような臭いがしない無臭のガスを測定できるものもある。

学習するガスセンサーがIoTの継続的な進化を可能に

 ただガスセンサーの多くは、産業用や建造物用で、スマホなどにはまだ搭載されていない。日常的に利用できるデバイスでは人の五感のうち、視覚・聴覚・触覚が実現されたものの、嗅覚と味覚はこれからだ。視覚・聴覚・触覚だけでも生活関連の新サービスが登場してきているのだから、嗅覚や味覚を実現するセンサーがスマホなどに搭載されれば、サービスの幅や種類は、さらに広がると期待される。

 そんなサービスの実現に向けて、スマホなどへの搭載も視野に独ボッシュグループの独ボッシュ センサーテックが市場投入したガスセンサーが「BME688」だ(写真1)。

写真1:独ボッシュ センサーテックのガスセンサー「BME688」

 ボッシュは、自動車用部品や電子制御機器の大手メーカー。電動工具やエネルギー分野にも事業展開する。自動車の電子化に伴い1990年代から車載向けMEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電子機械システム)センサー事業を本格化し、それらの民生分野への展開を目的にボッシュ センサーテックを立ち上げた。ボッシュのMEMSセンサー売上高は「2020年に世界第1位」という調査結果もある。

 そのボッシュ センサーテックのBME688は、ガスのほかに大気圧と温度、湿度を加えた4項目を測定できるガスセンサーであり、AI(人工知能)技術を使って測定したいガスの臭いを学習できるのが最大の特徴だ。学習機能を持つガスセンサーは、BME688が世界で初めてだという。

 ボッシュ センサーテック ジャパンでゼネラル・マネージャーを務める日吉克彦 氏は、BME688の強みをこう説明する。

 「ガスセンサーのニーズは、健康意識の高まりを背景に、ガスに含まれるVOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)の検知などへと高まっています。住環境が健康に与える影響への関心が高い欧米では、特定ガスの検知用センサーを各部屋に設置する動きも本格化しています。そうした中でBME688は、学習機能により、特定物質だけでなく、新たな検出ニーズにも柔軟に対応できます。このことは、IoTの継続的な進化に大きく貢献できるはずです」

写真2:ボッシュ センサーテック ジャパン ゼネラル・マネージャーの日吉 克彦 氏