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人とプロセスとデータをつなぐ、米Autodeskが見据えるwithコロナのチームワークの作り方【前編】

米ニューオリンズで開かれた「Autodesk University 2022」より

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2022年11月18日

 アイバーソン氏によれば、「パンデミックによる巣ごもりでストリーミング配信が活性化し、それに伴ってコンテンツの需要も増した。バーチャルプロダクションの導入により、より早いタイムラインで動く必要性が高まった」。にもかかわらずコロナ禍で、力の指輪の制作は約半年間、中断。再開後もリモートワークを強いられ「グローバルかつ複雑性の増した製作体制をいかに動かすかが課題になった」(同)という。

 そこでチームビルディングに進行管理ツール「ShotGrid」を利用し、大量のVFX(Visual Effects:視覚効果)のショット群を、制作プロセスの各ステップでリアルタイムに確認できるようにした。「膨大なVFXショットをつなぎ合わせながら物語を構成し、スケジュールどおりにこなせたことで、新しいストーリーテリングの創造性を築けた」とアイバーソン氏は、作業工程を振り返る。

 他作品を含め未編集映像のレビューには、Moxionを使った撮影完了後のポストプロダクションを実施している。そこでは「世界中の制作会社がデータのアップロードを通じてリモートでつながり作業している。世界中のアーティストやクリエイティブチームを受け入れやすくなった」(アイバーソン氏)という。ShotGridとMoxionの間でのアセットの共有もAPIにより実現しているとした。

設計・製造向けAutodesk Fusion:米BBi Autosportsのレーシングカー設計

 Autodesk Fusionは、プロジェクトのワークフローを統合管理しプロセスの自動化を実現するためのプラットフォームになる。開発に関するデータを集約し、どのように設計・製造・機能しているかをチーム全体で追跡し、製品のライフサイクルにおいて必要なデータを必要なタイミングに取り出せるようにする。Fusion 360を核に、PDM(Product Data Management:製品データ管理)/PLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)ソフトウェア「Autodesk Upchain」とプロジェクト管理ツール「Prodsmart」を連携させる。

 設計・製造分野の利用者として登壇したのは、レーシングカーを手掛ける米BBi AutosportsのCEOであるべティム・ベリーシャ(Betim Berisha)氏(写真5)。「製造業において絶えず変化する締切に対応しチームの整合性を保つには、データ管理が重要になる」と強調する。

写真5:米Amazon Studios Head of Product Strategyのエリック・アイバーソン(Eric Iverson)氏

 BBi Autosportsは、米コロラド州で開かれる「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」に参戦するレーシングカーを設計・製造している。2019年には世界最速を記録したモデル「ルーシー(Lucy)」を投入。2022年モデルでは競争力をさらに高めるため、「車台や排気管などの基本構造の設計に数値計算による設計手法ジェネレーティブデザインを採用し軽量性と剛性を両立させた」(ベリーシャ氏)という。

 高度な設計を施した各種パーツが完成するまでには、空力検証やカーボンを用いた線形デザイン、パーツ製造など、世界各地に点在する種々のサプライヤーとの連携が不可欠だ。BBi AutosportsではFusion 360を使って、パートナー各社とデータに基づく共同開発をクラウド環境で実施した。ベリーシャ氏は、「全社的な目標に向かってパートナー各社をシンクロさせるには、すべてのデータを1カ所に集約することが効果的であり、かつ唯一の方法だ」と指摘した。

クラウド上のワークフローがハイブリッドでの働き方体験を高める

 イベントに登壇した利用企業が示したように、ダイナミックに変化する環境に置かれるチームの働き方は、リアルとバーチャルのハイブリッド化が確実に進展している。そうした環境において、クラウド上でのワークフロー管理はチームが離れていても、いつでも、どこでも、つながれる。そうした働き方をAutodeskのアナグノスト氏は「連携体験(Connected Experience)」と表現する。

 働く環境のハイブリッド化はCAD分野に限らない。さまざまな業種・業態において、ハイブリッドな働き方や、そこでのチームビルディングを考える際には、Autodeskが示した連携体験の考え方や、そのためのデータ共有環境は参考になるだろう。

 後編では、連携体験の実現に向けてAutodesk製品がどのように機能するのかを各業界の事例を含め紹介する。