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人とプロセスとデータをつなぐ、米Autodeskが見据えるwithコロナのチームワークの作り方【前編】

米ニューオリンズで開かれた「Autodesk University 2022」より

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2022年11月18日

3D(3次元)CAD(コンピューターによる設計)ソフトウェアなどを手掛ける米Autodeskが、年次イベント「Autodesk University 2022」を米ルイジアナ州ニューオーリンズで2022年9月27日から29日にかけて開催した。今回の主題は、withコロナ/アフターコロナを見据えた設計・開発環境におけるチームワークのあり方。製品ライフサイクルにおけるワークフローをチームでこなすためのデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性を説くとともに、そのための新クラウド基盤を発表した。Autodeskが提案するチームワークのための環境を前編・後編に分けて紹介する。

 「コロナ禍による混乱により、新しいチームコラボレーションの形が発見され、それが不可逆的に浸透した。その形とは、データとプロセス、そして人々がつながることである」−−。米AutodeskのCEO(最高経営責任者)であるアンドリュー・アナグノスト(Andrew Anagnost)氏は、同社の年次イベント「Autodesk University 2022」(米ルイジアナ州ニューオーリンズで2022年9月27日〜29日に開催)の基調講演で、こう強調した。

写真1:CEO(最高経営責任者)のアンドリュー・アナグノスト(Andrew Anagnost)氏

 その背景には「データとプロセスが切断されると人々は、たちまちサイロ化されてしまう」(アナグノスト氏)ことがある。「ここ数年、コロナ禍で誰もが痛感したチームが機能するうえでの困難」(同)だ。さらに昨今は、国際問題や気候変動などさまざまな外的要因によって、ビジネスや生活が予期せぬ停止を余儀なくされるケースが増えている。

開催地ニューオリンズ市が取り組んだDXもチームワークが支えた

 Autodesk Universityはこれまで、米ネバダ州ラスベガスでの開催が常だった。それが今回は、米ルイジアナ州ニューオーリンズを開催地として選んだ。ジャズ発祥の地として知られ、異文化共生の歴史を持つニューオーリンズは、ミシシッピー川沿岸に位置する港湾都市。湿地を干拓した同市の歴史は水害との対決にあり、2005年のハリケーン・カトリーナでも甚大な被害を受けている。

 1日目の基調講演の冒頭、ニューオーリンズ市で雨水対策の責任者を務めるメーガン・ウィリアム(Meagan William)氏が登壇し、同市での水害対策として構築した雨水全体を管理するための取り組みを紹介した。

 カトリーナ以降、同市では、堤防や下水道などの「グレーインフラストラクチャ(Gray Infrastructure)」を整備するとともに、透過性舗装により雨水を排水する地下収容池や、街路や造園の植物による吸水で降雨時のピークを制御する「グリーンインフラストラクチャ(Green Infrastructure)」という新しい手段を活用している。

 その実現に向けては、「設計者や構築者などと市民のコミュニティとの連携を図り、そのフィードバックをプロジェクトに組み込むようにしたことが奏功した。これなしにはニューオリンズ市のデジタルトランスフォーメーション(DX)は成功していない」とウィリアム氏は強調する。

 コミュニティを形成する市民は、市の取り組みの最終的なユーザーだ。「テクノロジーを使った開発・設計では、コミュニティとつながり、専門技術のギャップを埋め、次世代のユーザーの存在を意識して変革に臨む必要がある」とするウィリアム氏の言を受けたアナグノスト氏は「物事が常に変化している世界では、成し遂げるための手段を変えることを厭わない必要がある」と呼応した。

新クラウドでデータをチームの全員に届ける

 ニューオリンズ市の例を含め、コロナ禍で顕在化したサイロ化問題の解決策としてAutodeskは今回、新たなクラウドプラットフォームの投入を発表した。(1)建設・土木(AEC:Architecture, Engineering & Construction)向けの「Autodesk Forma」、(2)メディア・エンタテイメント業界向けの「Autodesk Flow」、(3)設計・製造業向けの「Autodesk Fusion」の3種を展開する。(写真2)。

写真2:Autodeskは3つの業界別プラットフォームサービスを展開する

 新プラットフォームについてアナグノスト氏は、「適切な人材を、適切なデータに、適切なタイミングでつなぐためのプラットフォームになる。プロジェクトのライフサイクル全体をつなぎ、新しい働き方へと導く」と力を込める。

 いずれも、同社の開発用クラウドサービス「Autodesk Platform Services」を共通基盤とし、設計/開発/製造の各部門で使用されている同社製品をクラウドに接続。API(Application Programing Interface)によって同社製または他社製の種々の製品/サービスとの連携で必要な環境を実現する。

 特にオープンなデータ形式を扱えることを重視し、相互運用のための接続性と拡張性、オープン性を確保する。「データが柔軟でスケーラブルなパイプラインを確実に流れるようにしたい」(アナグノスト氏)という。