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進まない日本企業のDX、その理由を明かすIPAの『DX白書2023』
見識なし、危機感なしの役員層からはDX人材育成策も生まれない
DXが進まない課題を『DX白書』は明らかにしている。第1の理由は、経営層のデジタルに対する見識のなさである。「DXの取り組みに対する見識のある役員が『3割以上いる』」とする日本企業は3割に満たない(図4)。
「出島でやっていれば良い」と思っているのもかもしれないが、それは、先の金融機関の責任者が吐露したように、DXの取り組みを妨げる最大の要因になる。役員に危機感がなければ、従業員とも危機感は共有されず、「変革も新規事業の創出も必要性はない」ということになる。
第2の理由は、DXを全社で推進する体制がないことだ。DXでは、経営者とIT部門、業務部門の協調が欠かせないとされるが、「十分にできている」と「まあまあできている」とする日本企業は4割弱であり、米国企業の半分しかない。
第3の理由は、DXを推進するデジタル人材不足である。ここは詳細にみてみたい。まず、DXを推進する人材がいるのかどうか。日本企業では「やや不足」と「大幅に不足」を合わせた回答は8割を超える(図5)。これに対し米国企業では、「やや過剰」と「過不足はない」とする回答が7割を超える。
日本企業の回答は「DXに取り組んでいる」とする企業の回答のため、不足感が高いという見方もできる。だが、10年以上前からIT人材不足は指摘されており、全く改善されていないと言える。そもそも多くの日本企業には、DX推進人材あるいはIT人材を育成・確保するための計画があるのだろうか。計画があれば改善されているはずだが、計画がないことは、「どんな人材が必要なのか」を明確でないことからも分かる。
DX推進に必要な人材像および、その育成・獲得策についてIPAは5つの段階を設定している。(1)「人材像の設定・周知、共通理解、(2)当てはまる人材を社内から発掘・登用、社外からの獲得による確保・獲得、(3)人材のキャリア形成やキャリアサポートの施策、スキルアップするための育成施策や既存人材の学び直しの取り組み、(4)「評価基準の定義と定期的な評価の実施・見直し・フィードバックによる人材の定着化、(5)「DXが組織に根付くための企業文化・風土の形成だ。
このうち最初の段階である「設定・周知」を実行している日本企業は2割もないのが実状だ。
DX人材への投資も少なく評価基準もない
DX推進人材の育成方法も貧弱だ(図6)。日本企業が採用する育成策で最も多いのは「DX案件を通じたOJTプログラム」(23.9%)である。「社内外兼業・副業における経験」は8%弱である。米国では、「DX案件を通じたOJTプログラム」「社内外兼業・副業における経験」「DX推進リーダー研修」が、いずれも5割を超える。
当然、DX推進人材への投資も少ない。投資予算の増減をみると、「DXの成果あり」とする日本企業でも、その6割弱は「横ばい」か「減少」である(図7)。「DXの成果なし」とする日本企業では、その割合は8割弱になる。
DX推進人材の評価基準もない。「基準がある」とする割合が、米国が6割なのに対し、日本企業は12%である。IPAの古明地氏は「DX推進人材の評価には、既存人材とは異なる基準が必要で、新たな評価基準を定義することが急務だ。評価基準は人材の定着にも必要になる」と説く。