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進まない日本企業のDX、その理由を明かすIPAの『DX白書2023』
レガシーシステムが残る日本企業が4割強も
『DX白書2023』は、DXを推進するためには、ビジネス変革に素早く対応できるよう、データ活用を中心に社内外へ新たな価値を生み出せるだけのITシステムが必要だと指摘する。そうしたITシステムが持つべき要素として、(1)変化に対して俊敏かつ柔軟に対応できるスピード・アジリティ、(2)社内外の円滑かつ効率的なシステム間連携を目指す社会最適、(3)データ活用の3つを挙げる。
このうち、「変化に応じ、迅速かつ安全にITシステムを更新できる」といったスピード・アジリティの達成度は3割弱だ(図8)。「構造が柔軟で、外部の有用なサービスと連携して活用できる」や「社内外の様々なリソースから柔軟にデータ収集・蓄積が可能」になれば、その達成度は2割弱と、さらに下がる。
これらの結果からは、新しい技術を活用しない日本企業の経営姿勢も浮かんでくる。例えば、必要な機能を細分化し部品化を図るマイクロサービス技術を活用している日本企業は2割強、ソフトウェアの可搬性を高めるコンテナ技術は約1割である。逆に「レガシーシステムが残っている」とする日本企業が4割強もある。
データ活用も、着実に進んでいるものの効果が現れていない(図9)。そもそも効果の測定方法が見い出せていないのではないか。例えば、データ活用の成果として売り上げが増えたとするのは、「接客サービス」と「営業・マーケティング」の領域でのみ2割超。他の領域は2割未満である。
DXが進まない理由ついて古明地氏は、「有識者による意見」と前置きしたうえで、「経営者はデジタルを使った新しい事業に取り組むことに苦手意識がある」と指摘する。例えば、コスト削減への投資はリターンを測れるものの、回収できるか分からないDXへの投資に躊躇するのは当然かもしれない。
ほかにも「現時点の収益源を担っている事業責任者が抵抗勢力になっていることもあれば、人材の流動性の低さもある」(古明地氏)という。
従来の産業構造が崩壊したことを理解すべき
このように『DX白書2023』からは、「多くの日本企業がDXに取り組むつもりはないと考えているのではないか」という見方が浮かんでくる。今のビジネスを守るために、変革ではなく、目先の課題の解決しか考えられない状況にあるのだ。
だが、少子高齢化が進む日本でのビジネスは、どんどん縮んでいく。多くの産業の新陳代謝と、新しい産業の創出ができなければ、日本企業の発展・成長は難しいだろう。一部の大企業を頂点にした産業構造が崩壊したことを、誰もがいち早く理解しなければならない。
田中 克己(たなか・かつみ)
IT産業ジャーナリスト 兼 一般社団法人ITビジネス研究会代表理事。日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任。2010年1月にフリーのIT産業ジャーナリストに。2004〜2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。2012年10月からITビジネス研究会代表理事も務める。40年にわたりIT産業の動向をウォッチしている。主な著書に『IT産業崩壊の危機』『IT産業再生の針路』(日経BP社)、『2020年 ITがひろげる未来の可能性』(日経BPコンサルティング、監修)などがある。