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進まない日本企業のDX、その理由を明かすIPAの『DX白書2023』

田中 克己(IT産業ジャーナリスト)
2023年2月14日

IPA(情報処理推進機構)が2023年2月9日、『DX白書2023』を発表した。経済産業省が『DXレポート』を発表し、「レガシーシステムの刷新を2025年までに実行する」ことを迫ってから4年半経過した。だが今、日本企業のシステム刷新やデジタルトランスフォーメーション(DX)は進展しているのだろうか。『DX白書2023』から探ってみる。

 「進み始めたデジタル、進まないトランスフォーメーション」--。IPA(情報処理推進機構)が2023年2月9日に発表した『DX白書2023』のサブタイルである。そこには、日本企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)が一向に進んでいないこと、さらには日本企業にDXを進めるつもりはあるのかといった苛立ちすら募っているようにみえるのは筆者だけだろうか。

 『DX白書2023』は、DXを推進する際の課題と進むべき道を示すためにまとめられている。そのために、日本国内のDX事例154件を精査する伴に、日本企業543社と米国企業386社の経営層やIT責任者、DX推進部門の責任者に、それぞれのDXへの取り組み状況をアンケート調査している。

 同調査によれば、DXに取り組んでいる日本企業は7割弱に達する(図1)。2021年10月の調査では、4割以上の企業が「DXに全く取り組んでいない」か「部署ごとに個別に取り組んでいる」という状況だっただけに、大きく進展したといえる。

図1:DXへの取り組み状況(『DX白書2023』より)

 確かにDXによる成果も出始めている。日本企業で「成果が出た」とする回答は6割弱に上る(図)。デジタル化で先行する米国企業に比べれば「成果が出た」とする回答比率は小さいものの、DXへの取り組みは着実に進展しているように見える。

図2:DXへの取り組み成果(『DX白書2023』より)

成果が出ているのはデジタル化と業務の効率化の領域

 だが、その成果の中身に注目すれば別の問題が見えてくる。「アナログ・物理データのデジタル化」と「業務の効率化による生産性の向上」については、なんらかの「成果が出ている」とする回答が8割近くになるのに対し、「新規製品・サービスの創出」と「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革」に対しては2割程度にまで下がる(図3)。

図3:DXにおける取り組み内容と、その成果(『DX白書2023』より)

 しかも「十分な成果が出ている」とする回答は、いずれも1割に満たない。IPA社会基盤センターイノベーション推進部 部長の古明地 正俊 氏は、「デジタイゼーションとデジタライゼーションの領域で成果が出ているものの、DXの本質の部分では進んでいない」と分析する。

 なぜDXが進まないのか。事業会社のDX戦略立案やその推進を支援しているデジタルシフトウェーブ社長の鈴木 康弘 氏は、「DXとデジタルの違いを理解していないからだ」と指摘する。すなわち、「デジタルを活用した効率化には取り組むものの、トランスフォーメーションには踏み込んでいない」(鈴木氏)ということだ。実際、筆者の耳にはDX推進に取り組む現場からの、さまざまな“不満”が聞こえてくる。

 例えば、ある担当者は、「経営者が『DXに取り組め』と指示し、DX推進のための専門部署も置かれたものの、何をすれば良いのか分からない」と嘆く。別の輸送機関でオープンイノベーション(協創)を推進しながらも失敗を経験した責任者は、「上からは『オープンイノベーションやDXをやれ、どうなっているのか』言われ、協創すること自体が仕事になっていた」と過去を振り返る。

 また、ある金融機関の責任者は、「社内からは遊んでいるように見られていた」と吐露する。DXの取り組みでは、既存事業や組織から切り離した“出島”スタイルで挑戦させるケースが少なくない。ただ出島の取り組みは、多くの従業員や幹部と情報が共有されず、社内からは「自社の事業や成長とは関係のないこと」と思われるというわけだ。