- News
- 共通
急進する中国発の生成AI、日本企業の選択肢になるか
NRI未来創発センター エキスパートコンサルタントの李 智慧 氏
大きく3つの開発スタイルで進んでいる
中国企業の生成AI技術の開発スタイルは大きく3つに分類できるという。(1)エコシステム構築型、(2)インフラ建設型、(3)業界特化型である(図3)。
エコシステム構築型
アリババや百度などプラットフォーマーの動きである。自社の優位性を活かしたエコシステムを形成し、汎用のAIプラットフォームの世界を広げていく。
例えばアリババは、EC(電子商取引)などのビジネスに生成AI技術を融合し、消費者のデータを学習に活用して、商品企画やマーケティングなどに活かす。は傘下の配達サービス会社や旅行代理店などにも提供し、EC市場のさらなる拡大につなげる作戦を展開する。
検索エンジンを主力とする百度は、検索エンジンが収集した豊富なデータを武器に、自動運転やスマートシティなどに実装するほか、地図などにも組み込んでいる。同社は、この10年間にAI事業に累計1000億人民元(1兆9500億円。1元19.5円換算、以下同)を投資した。
インフラ建設型
大学や研究機関と大企業が共同開発した生成AI技術をオープンソース化するなどでインフラ化を図る。智源研究院らの動きである。
業界特化型
特定の領域で独自の優位性を活かす。例えば、音声認識技術を持つiFlytekは、教育や医療、自動車など36業界3000社超に大規模言語モデルを提供する予定である。同社のAI機能は560種あるという。医療業界向け大規模言語モデルを開発する成都医雲科技は医師の診断結果評価に活用する。20億件の医学テキストデータと800万件の臨床診療データを学習している。
こうした中国での生成AI業界が急成長する背景には、AI技術の研究開発に当たる基礎人材の豊富さもある。李氏によれば、米国に留学したり米国のAI企業に就職したりして知識や経験を積んできた人材が中国に帰国し、AI企業や研究開発機関に就職したり起業したりしている。
中国AI人材によるAI関連の研究成果が高まり、AI関連の論文発表数も世界1位になっている。中国テンセントなどが調査している「世界各国AIイノベーション指数ランキング」では米国に次ぐ2位だ。だが冒頭で触れたように、こうした先端技術者の育成・獲得を米中ハイテク競争が困難にさせている。
AI産業を政府が積極支援
米中ハイテク競争に伴う大きな課題解決に向けて、中国政府はAI産業の発展・強化に向けた優遇処置を実施し始めた。具体的には、2030年にAI技術の基礎理論や技術、応用の一部で世界のリーダー的な水準する計画を作成し、AI産業の育成を後押しする。
中央政府だけではなく、地方政府もAI産業発展の支援策に乗り出している(図4)。例えば、上海市は最大2000億元(2兆9000億円)の資金支援、深圳市は1000億元(1兆9500億円)のAIファンド、成都市は最大1000億元(同)の資金支援などを、それぞれ用意する。大規模データセンターについても、政府が全国8カ所に建設する一方で、上海市など地方政府もデジタルインフラの建設に着手した。
AIサービスのためのプラットフォームの構築も進める。「AIモデル標準化タスクフォース」の構成メンバーを決め、活動を開始する。同タスクフォースでは、フレームワークなどの標準化からデータの共有化、産業への応用などを検討する。