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急進する中国発の生成AI、日本企業の選択肢になるか

NRI未来創発センター エキスパートコンサルタントの李 智慧 氏

田中 克己(ITジャーナリスト)
2023年8月8日

中国企業による生成AI(人工知能)技術の開発が活発化している。市場規模も年率数倍での成長が予測される。中国のデジタル事情に詳しい野村総合研究所(NRI)の未来創発センター戦略企画室でエキスパートコンサルタントを務める李 智慧 氏がこのほど、中国での生成AIの現状と課題、中国政府の政策と規制方針などを紹介した。日本企業が中国発の生成AIを活用する日が来るのだろうか。

 中国では、アリババや百度といった大手のほか、政府系の研究機関や大学、スタートアップ企業が生成AI(人工知能)技術の開発を加速させている(図1)。米OpenAIが開発するAIチャットサービス「ChatGPT」に近い性能に到達しているともいう。

図1:中国では生成AI業界に参入する企業が急増している

 その背景には、米中ハイテク競争が激化する中で、中国国内での開発を強化せざるを得ない状況に追い込まれていることがある。中国のデジタル産業や先端企業を調査している野村総合研究所(NRI)未来創発センター戦略企画室の李 智慧エキスパートコンサルタントによれば、「米国が先端技術分野における中国への生産移管や技術移転、事業連携、投資などを制限したことで、八方塞がりの状況にある」(写真1)。クラウドサービスの利用制限など技術面の制約も広がる。

写真1:野村総合研究所(NRI)未来創発センター戦略企画室エキスパートコンサルタントの李 智慧 氏

 そのため中国政府は、自国の企業などにAI技術の自社開発を奨励し始めた。米国製GPU(画像処理プロセサ)の調達困難に備えて、チップの国産化も後押しする。「性能が少し劣っていても、中国ファーウェイ製などを採用する動きがみられる」(李氏)という。

中国生成AI市場は23年に6倍、24年に5倍の成長を予測

 中国はAI技術を重要領域に設定し、技術開発と応用技術の人材育成を支援してきた。例えば2021年に発表した「14次5カ年計画」では「デジタル中国」戦略を打ち出し、経済、ガバメント、文化、社会、エコシステムの5分野を対象に、AI技術などデジタル技術の融合を促進する。それを支えるクラウドなどのデジタルインフラとデータ資産の開発・整備にも取り組む。

 実は、米OpenAIがChatGPTを発表する前の2021年、AI分野の研究開発機関である北京智源人工知能研究院が生成AIを発表している。その後の2022年から2023年にかけて、テンセントやファーウェイ、百度、アリババなども生成AIを発表した。李氏が調べた2023年7月までの報道からだけでも、その数は78件になるという。

 メガテックだけではなく、米マイクロソフトや米グーグルなどに在籍したAI技術の研究者らや、大学・研究機関からの発表も相次いでいる。例えば、清華大学は開発した生成AIをオープンソース化し、中国の技術力や応用力の底上げや産業輩出を支援する。そうした中から、金融や教育、医療など業界に特化した生成AIも生まれてくる。

 中国生成AIの市場規模は、2023年に前年比6倍、2024年に同5倍の成長が見込まれる。GPUなどのチップから、ディープラーニング(深層学習)のフレームワーク、大規模言語モデル(LLM)、業界特化型の応用などに広がるためだ(図2)。

図2:中国独自のAI関連技術をベースに多くの業種・業界への実装が進む

 すでに金融のカスタマサービスといった業界特化のユースケースも増えている。李氏が自らの経験を話す。同氏のスマートフォンに金融機関の営業担当者から商品やサービスの売り込み電話があったところ「対応するのは生成AIシステムで、しかもAIだとは分からないほど高い性能だった」(李氏)という。

 実際、各社は生成AIの性能向上を急ピッチで進めている(図10)。2023年4月7日に生成AIを発表したアリババは、6月にはAIアシスタント機能や、音声や画像をリアルタイムでテキストに変換する機能などを追加した。3月16日に生成AIを発表した百度は、7月にモデル性能を50%以上、推理性能を30%、訓練速度を2倍にそれぞれ向上させている。