• News
  • 製造

ハードからソフト、サービスまでの一元管理が持続可能なものづくりを可能に

米PTCの年次イベント「LiveWorx 2023」に登壇したジム・へプルマンCEO

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2023年8月18日

3D(3次元)CAD(コンピューターによる設計)ソフトウェアなどを手掛ける米PTCは2023年7月26日(米国時間)、2024年2月に現CEOのジム・へプルマン(Jim Heppelmann)氏が取締役会長に就き、後任を現SLM(Service Lifecycle Management:サービスライフサイクル管理)事業担当社長のニール・バルア(Neil Barua)氏が務めると発表した。両氏は、同社の年次イベント「LiveWorx 2023」(米ボストン、2023年5月15日〜18日)に登壇し、製造業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の方向性を訴えていた。CEOとして最後の登壇となったへプルマン氏のコメントを中心に、PTCが描く製造業の姿を紹介する。

 「アフターコロナの今、産業界は最大の変革期を迎えている。製品に占めるソフトウェアの比重の高まりによるハードウェア開発との融合や、サプライチェーンの再編による新しい協同体制下でのサービス戦略の実行など、DX(デジタルトランスフォーメーション)のさらなる推進が不可避だ」――。米PTCのCEO(最高経営責任者)であるジム・へプルマン(Jim Heppelmann)氏は、年次イベント「LiveWorx 2023」(米ボストン、2023年5月15日〜18日)の基調講演で、こう強調した(写真1)。

写真1:2024年2月に取締役会長に就く現CEO(最高経営責任者)のジム・へプルマン(Jim Heppelmann)氏

ソフトウェア化は顧客体験(CX)を高めるための手段

 コロナ禍でLiveWorxの対面での開催は4年ぶり。かつヘプルマン氏にとっては、CEOとして最後の基調講演となった。この間、半導体不足やウクライナ侵攻など、さまざまな外的要因が製造業における資源の高騰や工場停止などの混乱をもたらした。それだけに、「よりレジリエントな(回復力がある)サプライチェーンを構築し、よりサステナブル(持続可能)な組織や製品への変革が必要になっている」(ヘプルマン氏)のが現状だ。

 サプライチェーンの再編では、既存サプライヤーとの結びつきを強めるのはもちろん、新しいサプライヤーとの協同が求められる。新たな協同を加速するためには、「セキュリティリスクへの対応などコンプライアンス(法令遵守)への対策が必要になる」(へプルマン氏)。そのコンプライアンス対策でも、これまで以上に取り組みの重要性が増しているのが「ソフトウェアへの対応であり、デジタルの世界で、どうありたいかを決めることだ」とヘプルマン氏は強調する。

 例えば、EV(電気自動車)シフトが進む自動車業界にあっては、電池や、EV化に伴う部品構成や車体デザインの変更などハードウェア領域での変化が注目されている。しかしヘプルマン氏は、「現在起こっているのは、デジタル化、すなわちソフトウェアによって顧客が求める機能を続々と追加していくというビジネスモデルの変革だ」と指摘する。

 すなわち、「製品は常に完成形ではなく、製造後もソフトウェアによって継続してアップデートできる。結果、製造現場でもソフトウェア的なアジャイル(俊敏)な開発スタイルが浸透し始めている。自社ブランドの価値を証明するためには、顧客からのフィードバックに基づき、短いサイクルで改善を繰り返すことで、顧客体験(CX:Customer Experience)を高めなければならない」(同)というわけだ。

サービス戦略が企業の収益性を左右するカギに

 一方、次期CEOに就くニール・バルア(Neil Barua)氏は現在、SLM(Service Lifecycle Management:サービスライフサイクル管理)事業担当社長であり、その主力製品は、FSM(Field Service Management:フィールドサービス管理)ソフトウェアの「ServiceMax」である。ServiceMaxはPTCが2021年に買収した製品で、バルア氏はServiceMaxのCEOだった(写真2)。

写真2:旧ServiceMaxのCEOだったニール・バルア(Neil Barua)氏。2024年2月には米PTCのCEOに就く

 ServiceMaxは、販売後の製品に対する各種サービスの提供状態を管理するための仕組み。PLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)と連携することで、製品のシリアルナンバーをキーに、製品のトレーサビリティ(追跡可能)の確立を支援する。製品の利用状況の把握では、PTCはIoT(モノのインターネット)基盤ソフトウェア「ThingWorx」も抱えている。

 バルア氏は、「ThingWorxで取得するデータとの連携により、予防保守に代表されるような予測・予防的性質を持つ顧客サービスの提供が可能になる。そうしたサービスの提供先で何が起こったのか、どう使われたのかまでをPLMで一元管理できれば、サービス性を高めるための設計・製造への取り組みを強化できる」と強調する。

 ヘプルマン氏も、「ソフトウェア化が進む製品のライフサイクルを管理するためには、顧客に向けたアクションが発生するサービス工程にも関与しなければならない」と、ServiceMaxの必要性を訴える。

 その理由をへプルマン氏は、「製造した製品を部品単位で追跡・管理することで、製品の価値が十分に発揮されているかどうかを監視する。十分でなければサービスや支援を提供し顧客価値を高める必要がある。今後は、サービス戦略こそが収益・利益拡大の原動力として重要になってくるからだ」と説明する。