• News
  • 製造

ハードからソフト、サービスまでの一元管理が持続可能なものづくりを可能に

米PTCの年次イベント「LiveWorx 2023」に登壇したジム・へプルマンCEO

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2023年8月18日

 PTCがSaaSに注力する、もう1つの理由としてヘプルマン氏は、「部門や企業の垣根を超えて、従業員やサプライヤーの誰もが参加できるコラボレーション環境を構築できるためだ」と強調する。

 CAD部門のバイスプレジデント ジェネラルマネージャーであるブライアン・トンプソン(Brian Thompson)氏も、Creo+の最大のメリットとして、「SaaSのプラットフォームの上では全員が同じデータに対し、複数人がリアルタイムで作業できるコラボレーションが可能になる」ことを挙げる(写真3)。

写真3:CAD部門 バイスプレジデントのブライアン・トンプソン(Brian Thompson)氏

 SaaSによるコラボレーションを加速する企業の1社が、ネットスーパーを手掛ける英Ocado(オカド)グループのテクノロジー子会社の英Ocado Technologyだ。ネットスーパーのためのスマートフォン用アプリケーションや生鮮食品の配送拠点のシステムなどを開発する。日本国内ではイオンが2023年8月に首都圏で始めたネットスーパー事業「Green Beans」にOcado Technologyの仕組みを導入している。

 Ocado Technologyでは、生鮮食品を倉庫でピックアップするためのロボットの開発において、ハードウェア技術者、エレクトロニクスの技術者、ソフトウェア技術者の協同作業を進めるためにSaaSのPLMソフトウェアのOnshapeを利用している。

 同社の担当者は、「ソフトウェア開発における分岐(ブランチ)や統合(マージ)といった開発手法をハードウェアの開発にも導入できた。異なるバックグラウンドを持つ技術者が部門の垣根を超えて参加することが製品の差別化につながっている」と話す。

サスティナビリティへの対応は設計者の環境意識で決まる

 製造業のソフトウェア化、サービス化と並んでヘプルマン氏が、その必要性を強く訴えるのがサスティナビリティ(持続可能性)である。製品が環境の与える負荷の総計である環境フットプリントを最小限に抑えることが、ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)経営への関心の高まりを背景に、より高まっている。ヘプルマン氏は「サステナビリティは、企業が責任を負うべきコンプライアンスの形態の1つだ」と説明する。

 そのうえでPTCでCMO(最高事業戦略・マーケティング責任者)を務めるキャサリン・クニカー(Catherine Kniker)氏は、「サスティナビリティの実現において本当に必要なのは、上流工程に携わる設計者の環境意識を高めることだ」と指摘する(写真3)。

写真3:CMO(最高事業戦略・マーケティング責任者)のキャサリン・クニカー(Catherine Kniker)氏

 なぜなら、「製品の環境フットプリントの80%はエンジニアリングで決まる。設計が完了してからでは、環境フットプリントを削減するための調整が効かなくなってしまうからだ」(クニカー氏)

 クニカーはサステナビリティの主要テーマとして、(1)非物質化、(2)エネルギー効率の向上、(3)廃棄物削減の3つを挙げる。これらの達成に向けてPTCが重視する領域の1つがシミュレーションである。

 LiveWork2023では、シミュレーション解析ソフトウェアの米Ansysが提供する材料情報管理ソフトウェア「Granta」とCreoおよびWindchillの連携強化と、米APRIORI Technologyの製造コストシミュレーションソフトウェア「aPriori」との連携強化を、それぞれ発表した。

 Grantaとの連携では、「設計時に性能と環境フットプリントのバランスを取ることで、耐久性とリサイクル性の両立などを支援する」(クニカー氏)。aPrioriとの連携では、「3D CADモデルを用いたコストの最適設計要因や削減要因の分析およびサプライチェーンのCO2排出コストの計算などがCreo上で実行可能になる」(同)という。

 ヘプルマン氏は「サステナビリティは、PTCの製品ポートフォリオにまたがる包括的な戦略だ。製品ライフサイクルにおける上流から下流までのすべてを横断するデータ管理により、企業の成長を支援する準備ができている」と力を込める。

 ソフトウェア化・サービス化とサスティナビリティへの対応と、そのためSaaS環境の整備に舵を切ったPTCは、今後の舵取りをサービスライフサイクル管理に造詣が深いバルア氏に委ねる。製造業のDXでは、「モノからコト(サービス)へ」のシフトが重要だと当初から指摘されてきた。PTCの決断は、製造業DXの流れを的確に捉えているのかどうか、業界の動きを注視したい。