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成長か売却か、DX時代を迎え岐路に立つIT子会社の現在位置
ガートナージャパンの国内IT子会社の実状調査が浮き彫りに
デジタル子会社設立の動きもあるが人材採用は難しい
こうしたIT子会社の問題点について一志氏は、「IT子会社の役割が、コスト削減なのかDX(デジタルトランスフォーメーション)など成長戦略への貢献なのかをはっきりさせる必要がある」と指摘する。実際、ニトリやビックカメラなどが設立したデジタル子会社では、親会社より給与水準を高くしたり多様化な働き方を導入したりと、従来のIT子会社とは真逆の採用基準を打ち出している。
とはいえデジタル子会社の設立は容易ではない。ブランド力や資金力などがなければ人材採用は至難の技だ。そもそも日本市場では、優秀なデジタル人材が不足している。親会社がDXやAI(人工知能)技術の領域で人材やスキルを求めても、IT子会社は「そもそも、そんな人材を採用も育成もしていない」のが実態だろう。
親会社が、データ活用ビジネスなどDXへの取り組みを求めるなら、例えば契約関係を見直す必要も出てくる。「先の読めないDXに本気で取り組むなら、従来のような見積もりから発注、納品といった“仕様通りに作る”という取引形態では不十分」(一志氏)だからだ。
あるいは、親会社のDXプロジェクトにデータ解析に精通する人材が必要な際に、人事制度上、そうした人材を採用できない親会社に代わりIT子会社が高給で雇うといった対応が求められるかもしれない。経営戦略にIT/デジタルを活かそうとするならば、「IT/デジタル人材の雇用には、相応の待遇を用意しなければならないのは当然のことだ」と一志氏は強調する。
企業情報システムの課題がオープンシステムからクラウドといった実行環境の移行から、DXというビジネス課題の解決へと切り替わる中では、IT子会社が担うべき役割も大きく変わってきているはずだ。クラウド化で物理的な資産が減少し、それに関わる保守・運用が不要になれば、人材ポートフォリオの見直しは不可避である。
例えば、小売業が無人店舗を導入するにあたり、サーバーの運用担当者を10人減らしAI技術が分かるエンジニアを確保したとする。だが無人店舗の運用が軌道に乗ってくれば、確保したAIエンジニアの他領域や他ビジネスでの活用を考えなければならない。
従ってIT子会社においても「CHRO(最高人事責任者)を配置し、ビジネスの先読みや最適な人事配置などが肝要になる」(一志氏)。親会社にしても、「デジタル技術の活用などの見据え、IT子会社への資金投入やデジタル特化会社の設立なども検討する必要がある」(同)
コスト削減目的だけではIT子会社の“考える力”が失われていく
最近は中期経営計画にDX戦略やDX宣言を盛り込む企業が増えている。だが一志氏は、「DXという用語を表面的に使うだけで、勝手な解釈を加えて『DX化』や『DX対応』といった謎の日本語を作る企業もある」と指摘する。「変革を拒むIT音痴の経営者にはITやデジタルに詳しい右腕もおらず、IT子会社の社長にITにも経営にも詳しくない役員を送り込んでいる」(同)とも言う。
実際、今回の調査では、IT子会社の設立目的に「DXや業務プロセスの改善」を挙げた企業は9%と少数派である。そうした企業でも設立理由に「親会社とは異なる勤務体系の導入(自由度を高くしたい)」や「親会社とは異なる給与体系の導入(IT子会社側を高くしたい)」「最新技術の習得と展開」とする回答はいずれも3%を超える程度で、DXなどへの貢献を真に期待しているようにはみえない。
IT子会社の設置目的がコスト削減に留まるのなら、IT子会社は上述したようなIT人材の流動性の波に飲み込まれていく。大手SI企業やコンサルティング会社で働いた方が良いと考える人は少なくないからだ。「若い人、優秀な人が辞めていってはIT子会社の存在価値は、お先真っ暗だ」(一志氏)。そうした危機感から、IT子会社が独自にAI技術やアジャイル開発などのリスキリングに取り組もうとしても、それを親会社が求めているとは限らない。
そうした掛け違いを防ぐには、親会社とIT子会社の意思疎通が図られていることが前提になる。だが現状は、「IT子会社から親会社に確認すれば良いことも聞けず、親会社から何を求められているのが分からなくなっている。結果、言われたことに従うだけになり、自ら考える力もだんだんと失っていく」と一志氏は指摘する。人件費などのコスト削減目的のIT子会社に未来は開けているのだろうか。