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IT/デジタル担当が“魅力ある仕事”でなければ人材不足は解消しない、ガートナーの一志アナリスト

田中 克己(IT産業ジャーナリスト)
2024年9月11日

DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みにおいて、課題の上位に常に挙がるのがDX人材不足である。だが20年以上も前から日本企業のIT人材不足は叫ばれてきた。ITがデジタルやAI(人工知能)などに進展したことで人材不足は、より深刻にし、労働人口の減少が優秀な人材の採用をますます難しくもしている。DX/IT人材不足に解決策はあるのか。ガートナージャパンのリサーチ&アドバイザリ部門シニアディレクターアナリストである一志 達也 氏に聞いた。

 ガートナージャパンは2024年4月、売上高500億円以上の企業のCIO(最高情報責任者)やDX(デジタルトランスフォーメーション)をリードする幹部ら400人を対象に「ITマネジメント調査」を実施した。結果、図1に示す13種類の人材が「大いに不足している」との回答が4割弱に上った。「多少の不足がある」との回答を合わせれば不足は8割弱にもなる。

図1:13種の人材像に対する不足状況(出所:Gartner 2024年 ITマネジメント調査)

 DXが掲げるAI(人工知能)やクラウドといったデジタル技術の活用だけではなく、基幹系システムなど旧来のIT/デジタルを担う人材までが不足している。多様なスキルを持つIT人材を獲得できない状態が続けば、日本企業の成長が阻まれることにもなる。

 この問題に対し、ガートナージャパンのリサーチ&アドバイザリ部門シニアディレクターアナリストである一志 達也 氏は、「IT/デジタルは人気のある職種のはずにもかかわらず、IT/デジタルを志す若者にとって魅力ある仕事になっていない」と警鐘を鳴らす(写真1)。

写真1:ガートナージャパン リサーチ&アドバイザリ部門シニアディレクターアナリストの一志 達也 氏

IT/デジタル関連の仕事内容が伝わっていない

 企業の経営者や人事担当者らにIT/デジタルの重要性に対する実感がなければ、「IT/デジタルをやりたい」という新卒の応募はなくなる。それは、就職ランキングの上位に、伝統的な日本の製造業ではなく、グーグルやアクセンチュアなどITやデジタルを専門とする企業が並ぶことに如実に現れている。

 加えて、IT/デジタルを担当してきた熟練者の定年退職者が増えるなかで、少子高齢化に伴い若者の数自体が減っている。にもかかわらず経営者や人事担当者らが「新卒を採用し育てればいい」と考え、IT/デジタルは専門性の高い仕事だと理解できなければ、IT/デジタル人材の獲得はおぼつかない。それでも各社は、あの手この手の採用計画を立てている。

 今回のITマネジメント調査によると、現在取り組んでいる人材不足対策の1位は「中途採用の積極化」(47.3%)である。それに「インターン制度の活用」(31.8%)、「新卒採用の条件改善」(30.8%)、「アルムナイ(カムバック)採用」(23.8%)などが続く。「働き方改革」(31%)や「福利厚生の充実」(23.5%)、「柔軟な報酬体系の導入」(19.3%)など従業員エンゲージメントの向上による離職防止策を打ち出す企業もある。

 だが一志氏は、「そもそもIT/デジタル担当で入社することの魅力が低すぎる」と指摘する。「ここなら是非、入社したい」という企業が少ないのは、「自社のビジネス内容や中期経営改革、DXへの取り組みなどに関する情報は発信するものの、IT/デジタル関連の仕事内容や、どんな技術の取り込みに力を入れているかなどを外部に伝えていないことにも一因がある」(同)という。

 実際、メルカリやZOZO、LINEヤフー、リクルートなどIT/デジタルを駆使しビジネスを展開している企業は、AIやブロックチェーンといった先端技術への取り組みや、その活用例を紹介したうえで、どんなIT人材を求めているのかを明確にしている。IT専門職を目指すなら、メルカリなどや先に挙げたアクセンチュアやグーグルなどを候補に挙げるだろう。

 候補に挙がる企業は平均給与も高い。だが、人材紹介サイトなどの人材募集情報を見ても、専門性の高い人材を採るつもりがないのか、年収1000万円以上を提示するような企業は、ほとんどない。一時期、「IT人材の給与を役員並みにする」とした企業もあったが、多くの企業が「例外を作りたくない」ということなのだろう。