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世界最先端を目指す中国の人型ロボット産業、失敗許容の育成策や国内大学での人材育成で推進

田中 克己(IT産業ジャーナリスト)
2025年7月23日

中国のイノベーションを調査・研究している野村総合研究所(NRI)未来創発センター 未来社会・経済研究室の李 智慧 氏が、同社のメディアフォーラムにおいて、中国の人型ロボット(ヒューマノイド)産業の現状と将来展望を解説した。中国が同分野に世界でも最も活発に投資している背景には、コンピューター、スマートフォン、EV(電気自動車)など続く革新的な製品と捉えていることがあるという。

 「中国は人型ロボット(ヒューマノイド)産業の発展に力を注いでいる」--。野村総合研究所(NRI)未来創発センター 未来社会・経済研究室で中国のイノベーションを調査・研究する李 智慧 氏は、こう話す。実際、人型ロボットを開発する企業の本社所在地は、中国が世界の半数を占める(図1)/

図1:人型ロボットの開発企業の本社所在地の分布

 人型ロボットは、目や口、手足など人間と同様の身体的特徴を持ち、自律的判断や歩行ができるだけの高度な知能レベルを備えるロボットである。「ヒューマノイドロボット」とも呼ばれる。工場内で決められた作業を担う、これまでの産業ロボットとは異なり、人間の仕事を代替し、人手不足の解消や大幅な生産性向上が期待されている。

産業発展の基盤となるバリューチェーンを構築

 人型ロボットには、車輪駆動型、二足型、二足と両腕・両手を持つ汎用型に大別できる。こうした人型ロボット本体を開発する中国企業は「110社を超え、第2位の米国の約2.5倍にもなる」(李氏)。研究開発投資も活発で、中国信通院の概略統計によれば、2024年第1四半期から第3四半期までに、人型ロボット関連企業の資金調達は、件数で世界全体の40%、資金で同じく52%を占める。いずれも米国を上回る規模だ。

 中国の人型ロボット産業の強さを李氏は「バリューチェーンを構築し、発展を可能にする基盤を整備していることにある」とする(図2)。構造部品やアクチュエーター、センサーといったコア部品の国産化から、ロボット本体の製造能力、多様なユースケースを次々に開発する。

図2:人型ロボット産業の育成に向けた中国のバリューチェーン

 ユースケースには、組み立てや検査などの産業分野から、医療リハビリ、高齢者介護、家事代行など幅広く、すでに「過当競争の雰囲気も出ている」(李氏)という。ロボットのトレーニング用データのデータベースも整備が進む。

 ただし「人型ロボットの性能はまだ初歩的なレベルだ」と李氏は指摘する。中国信通院がまとめる5段階の「機能の実現度合い」でいえば「レベル1の『安定的に歩く・走る・飛ぶなどの基本動作と初歩的な会話能力を備える』に相当するものが多い」(同)という(図3)。

図3:中国信通院は人型ロボットの「機能の実現度合い」を5段階に分ける