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自律型AIの調和が「エクスペリエンス・エコノミー」を実現する【前編】
米Genesys「Xperience 2025」より、CEOのトニー・ベイツ氏
コンタクトセンター向けSaaS(Software as a Service)を提供する米Genesysは、自律的に動作する「エージェンティックAI」によるCX(Customer Experience:顧客体験)の変革に向けた取り組みを強化している。どのような変革が起こるのか。同社が米ナッシュビルで開いた年次イベント「Xperience 2025」(2025年9月8日~10日)におけるCEO(最高経営責任者)のトニー・ベイツ(Tony Bates)氏の講演から紹介する。
「世界は今、大きく変化している。顧客が求めるCX(Customer Experience:顧客体験)の内容が変化し、AI(人工知能)技術を中心としたテクノロジーの急速な進化により、企業は今『エクスペリエンス・エコノミー』の到来に直面している」--。米GenesysのCEO(最高経営責任者)であるトニー・ベイツ(Tony Bates)氏は、こう訴える(写真1)。
エクスペリエンス・エコノミーの実現は過去最大の変革
これまでベイツ氏は米Cisco Systemsや米Microsoftで要職を務め「前者ではインターネットによる劇的な変革を、後者ではクラウドコンピューティング革命を目の当たりにしてきた」という。その経験を踏まえ、現在の変化は「これまでで最大の変革だ」(ベイツ氏)と話す。
ベイツ氏が訴える「エクスペリエンス・エコノミー」とは何か。その例示として自動車事故が起こった後の保険請求プロセスを挙げる。そこには、保険請求のための最初の書類提出から、状況の更新、査定、最終決定までに複雑なプロセスがある。
このプロセスについてベイツ氏は「保険会社にとっては必要かもしれないが、消費者は一切求めていない。プロセスの一部が滞ったり遅延したり、摩擦や緊張が生じたりすれば、それは単なるプロセスの遅延ではなく、顧客との信頼関係の崩壊を意味する」と指摘する。
そのうえで「保険会社とのやり取りにおいて、顧客が覚えているのは記入した書類でも電話で話した相手でもない。その時に『自分がどう感じたか』だけだ。これこそがエクスペリエンス・エコノミーの核心だ」とベイツ氏は説明する。
実際、保険会社のコンタクトセンターにおいては既に「顧客対応は単にクレーム処理が目的ではなく、信頼とロイヤルティを築くことこそが真の目的になっている」(ベイツ氏)。顧客の要求は「問題を解決してほしい」「時間を無駄にしたくない」「適切に応対し共感してほしい」などとシンプルだ。「これらに応えられない企業から顧客は、より良い選択肢を求めて離れていく」(同)とする。
このエクスペリエンス・エコノミーの実現に向けた適切なシステムをベイツ氏は「統合的なプラットフォーム上で、AI技術を活用したエクスペリエンスをオーケストレーションする仕組み」だとし、それを実現できるのが同社の「『Genesys Cloud』と『エージェンティックAI』だ」と説明する。
エージェンティックAIがオーケストレーション(調和)をもたらす
近年、AI技術の進歩は、深層学習による自然言語処理や画像認識技術の高度化から始まり、LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)による予測や会話、文章や映像など種々のコンテンツの生成までを可能にした。Genesysが考えるエージェンティックAIは「人間の指示によって個別機能として動作するのではなく、与えられた目的に則して自律的に考え計画し、行動するAI」(ベイツ氏)だ。
そのエージェンティックAIがオーケストレーションを実現する。すなわち「複数のAIが組織化され、AI自らが調和したシステムになることで、CX全体を調和が取れた一続きの体験に変える」(ベイツ氏)
GenesysはAIオーケストレーションに必要な機能として次の4つを定義する。
(1)自動化 :人間による操作や処理をAIが代わって実行する
(2)拡張 :従業員の能力を高め、人間が最も得意とする分野で力を発揮できるよう支援する
(3)パーソナライゼーション :AIが文脈をリアルタイムに理解し、顧客の感情的なトーンや好みを把握して体験に適応させる
(4)最適化 :システムが継続的に学習し、プロセスを含むCX全体を改善していく
AIオーケストレーションでは「これら4つを個別に考えるのではなく、連携により複合的に機能させる。それぞれが互いを強化し、調和して動作する」(ベイツ氏)とする。
