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企業の暗黙知を組み込んだ産業世界モデルが、ものづくりの価値指標を塗り替える【前編】
「3DEXPERIENCE WORLD 2026」より
3D(3次元)CAD(コンピューターによる設計)データ管理などを手掛ける仏ダッソー・システムズ(Dassault Systèmes)は、設計者が蓄積してきたナレッジやノウハウと、物理法則や製造制約を理解したAI(人工知能)技術を組み合わせることで、ものづくりの価値創造のあり方が変わると主張する。同社の年次イベント「3DEXPERIENCE WORLD 2026」(米ヒューストン、2026年2月1日〜4日)の基調講演から、企業のIP(Intellectual Property:知的財産)を学習した「産業世界モデル(Industry World Model)」と、役割の異なる複数のAIエージェントによる真意を探る。
「20世紀までの産業を『物を生産し、消費する時代』とするならば、21世紀の産業の本質は『ナレッジとノウハウを生み出し、それらが物を生成する時代』である」--。3D CAD(3次元のコンピューターによる設計)データの管理などを手掛ける仏ダッソー・システムズ CEO(最高経営責任者)のパスカル・ダロズ(Pascal Daloz)氏は、同社の年次イベント「3DEXPERIENCE WORLD 2026」(米ヒューストン、2026年2月1日〜4日)の基調講演でこう強調した(写真1)。
この構造転換を、ダッソーは「生成経済(ジェネレーティブ・エコノミー)」と定義している。生成経済とは「製品/サービスにおいて顧客体験の設計を最優先する『経験経済(エクスペリエンス・エコノミー)』と、使用する資源の再生までを可能にする『循環経済(サーキュラー・エコノミー)』の2つの経済価値を持つ」(ダロズ氏)という。
生成経済においては、動的で統合的なシミュレーションが可能な「バーチャルツイン」を用いて「仮想空間上で事前に検証・最適化したモデルを生成してから、現実にオブジェクトを設計・製造する」(ダロズ氏)プロセスを中心に置く。
企業固有のナレッジ/ノウハウの仮想化がAIモデルの核となる
前年は、AI技術を通じてそのモデルをどう生成できるかに企業の競争力が問われるとして、差別化要因としての“広義の”IP(Intellectual Property:知的財産)の有用性が強調された。
では、現実のオブジェクトを物理的な矛盾なく生成するためのIPはどう管理されるべきか。同社 3DEXPERIENCEブランド CEOのモーガン・ジマーマン(Morgan Zimmerman)氏は「これまで個人の頭の中や断片的な文書に分散していた膨大な暗黙知を『ナレッジ(Knowledge)』と『ノウハウ(Know-How)』の2つに明確に区別し、これらを仮想的に構造化する必要性がある」と説く(写真2)。これらIPを仮想化できれば「蓄積された集合的経験に基づいて新たなオブジェクトを創出可能にする」(同)という。
ジマーマン氏によればナレッジは、物理法則の計算式、人間工学に基づく寸法や規格など、設計の科学的根拠や原理を提供する「Why it works(なぜ、それが機能するのか)の体系」(ジマーマン氏)である。
一方のノウハウは、製造上で生じる制約や組み立てプロセスなど、設計を実体化させるための具体的な手順を規定する「How it exists(いかにして、それを存在させるか)の体系」(同)とする(図1)。
これらナレッジ/ノウハウからなるIPのライブラリは「いかに持続可能で体験に優れたオブジェクトを、物理法則や環境規制をクリアして作り出せるかが問われる生成経済においては、企業にとって真の『通貨(Currency)』になる」とジマーマン氏は強調する。IPは製造業向けクラウド「3DEXPERIENCEプラットフォーム」(ダッソー・システムズ製)で管理する。
AIエージェント間の衝突から最適解を導く
仮想化されたIPを設計・製造の実務で利用可能するのがAIエージェントである。その第1弾として前年は「AURA(オーラ)」を発表した。同社 SOLIDWORKS CEO兼R&D担当バイス・プレジデントのマニッシュ・クマー(Manish Kumar)氏は「ダッソーが蓄積してきた産業の知見と科学的根拠を学習し、人間のエンジニアと対等に共創する同僚『バーチャルコンパニオン』として開発した」と説明する(写真3)。
AURAに加えて今回新たに「LEO(レオ)」と「MARIE(マリー)」を発表した。それぞれにクマー氏は「独自の役割と専門的な職位(学位)を与えている」と説明する。
LEOは、MSc(Master of Science:理学修士)の職位を持つ、エンジニアリングの専門家。構造、運動、シミュレーション、製造技術などを扱って、設計意図を物理的な3Dモデルとして具現化する役割を持つ。
一方のMARIEは、PhD(Doctor of Philosophy:理学博士)の職位を持つ、科学的リサーチの専門家。材料科学や化学組成などの知見を元に製品に求められる強度や軽量性、耐水性などのトレードオフを分析し、規制適合(コンプライアンス)に則って最適な材料を提案する役割を担う。



