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自社の“プロジェクト”を理解するAIが、設計から製造・施工、運用までを束ねる【前編】
「Autodesk University 2026」より
デジタルとフィジカルの融合
デジタルとフィジカルの融合では、運用データをデジタルツインを磨くために使い、変更の影響を事前に検証する。AutodeskはTandemに、2023年に買収したシミュレーションソフトウェア「FlexSim」を統合済みだ(図3)。コンベアーラインや製造設備での運用の変更が、人やモノの流れに与える影響を検証可能な仕組みを整えている。
検証を実現した例に挙げたのは、米ハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港(Hartsfield-Jackson Atlanta International Airport)だ。1日28万人が利用するという同空港では、総合エンジニアリングのカナダWSPがインフラ改善のためのプログラムを管理し、Tandemで空港のデジタルツインを構築している。
WSPでデジタルディレクターを務めるクリス・ハーモン(Chris Harmon)氏は「すべてのエスカレーター、エレベーター、トイレに水を送る配管が確実に機能しなければならない。重要なのは、どのシステムが互いにつながっているかを把握することだ」とコメントする。
関連したデモでは、1台約200万ドルするという自動検査レーンを保安検査場に何台入れるべきかをシミュレーションし、5台ではなく3台で足りるとの結果を得た。
ライフサイクルの融合
ライフサイクルの融合は、運用で得た知見を現場の保守(Maintenance)と、次の設計に再利用する段階だ。課題は、問題を見つける仕組みと、それを直す仕組みが分かれていることにある。例えばTandemは、設備の稼働データから異常の兆しを捉えるが、実際に手配した技術者が修理を記録するのは保守管理の環境になる。
そこでAutodeskは2026年8月、保守管理ソフトウェアを手掛ける米MaintainXを買収した。Tandem上で検知した問題に対して、MaintainXからは修理の作業指示を自動で発行するなどの連携を想定する。指示を受けた技術者はスマートフォンアプリで点検手順や過去の修理履歴、メーカーのマニュアルを確かめながら作業を進める。
作業記録はTandemの運用履歴にも連携する。デモでは、MaintainXのAIアシスタントが記録をさかのぼり、ベアリングが過去8カ月で3件の故障の原因になっていたことを突き止めた。例えばこれらの知見は、より耐久性の高い部品の変更を検討するため、Fusionで設計を担うチームにも連携する。
PLMの手作業をAIエージェントが肩代わりする
運用・保守から再び設計へと知見をフィードバックさせるには、その間で部品や設計変更、承認の経緯を管理する仕組みが要る。製造業ではその役割をPLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)が担う。運用の問題を設計変更に反映する際には、BOM(Bill of Material:部品表)の改訂や変更承認をPLMが管理する。
だが、アナグノスト氏は「PLMが作業の流れを妨げている」と指摘する。「使い勝手の悪いPLMのために、製造業者が毎年数十億ドル規模の損失を被っている」(同)ともみる。
そこで掲げるのが「エージェンティックPLM」構想だ。PLMソフトウェア「Fusion Manage」では、変更が生じた際の情報収集や影響の分析、タスクの割り当てまでをAIエージェントに担わせる。これらは従来、管理者の手作業に拠ってきた作業だ。Fusionで一元化したデータベースにエージェント体験を重ねることで「PLMの価値だけを引き出せるようにする」とアナグノスト氏は強調する。
例えば、ベンダーからモーター供給不足を知らせるメールが届いたとする。サプライチェーン担当者がメールをPLM環境に取り込むと、Autodesk Assistantは関連する設計データと仕様書を集め、影響を受けるアセンブリ(組立品)と不足数、承認済みの代替品がないことを示す。ここからリードタイム重視やサプライチェーンリスク最小といった3つの代替案を提示もする。
担当者は共同作業の場に設計エンジニアを招き、BOMを修正するかはエンジニアが判断する。実際にBOMの更新に伴う締結部品の追加や変更指示書の草案作成、関係者へのタスク割り当てはAutodesk Assistantが肩代わりする。これにより、PLMが本来担うべき変更管理と追跡性を保ったまま、利用者が手を動かす作業を減らせるようにする。
AI活用の成否を分けるのは、企業自身の仕事の組み替え
こうした仕組みを通じて実際に“成果”につなげられるかは、企業自身が仕事の進め方を変えられるかどうかにかかっている。Autodeskは実際「プロジェクト数を増やし、1プロジェクト当たりの人員を減らす方針を実践」(アナグノスト氏)する。しかし、同じ考え方を製造業や建設業の顧客に説くと「『それはソフトウェア開発だから通用する話だ』とも反論を受ける」(同)という。
では、一人ひとりの働き方に変化は及ばないのか。これに対してアナグノスト氏は「まず管理職が自ら手を動かす」ように求める。AI技術が「何を得意とし、何が機能して何が機能しないのか、それによってチームがどう仕事を回していけるのかを体験しなければならない」(同)
AI技術の進化が加速する一方では、人の役割は変わっていくのではないかという議論がある。アナグノスト氏は「いま進んでいる状況に適応し『自分たちがどこで最大の価値を生み出せるか』を考え直すキャパシティがますます重要になる」と強調する。
後編では、基調講演に登壇した業界別のEVPの発言を中心に、製造、AEC、M&Eそれぞれの課題認識や打ち手を紹介する。
