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生成AI時代の設計はタスクが自動化されアイデア創出に集中できる【後編】

「Autodesk University 2024」より

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2024年12月19日

CAD(コンピューターによる設計)ソフトウェアなどを手掛ける米Autodeskが設計のためのAI(人工知能)機能群「Autodesk AI」の開発に力を入れている。年次イベント「Autodesk University 2024」(米サンディエゴ、2024年10月15日〜17日)から前編では、設計へのAI技術適用の考え方やAutodesk AIの開発状況などを紹介した。後編ではAI技術が求めるデータ基盤やソフトウェア連携への取り組みについて紹介する。

 「データから、より多くの情報を引き出すためには、データの構造を改善する必要がある。当社は顧客のデータを整理し手軽にアクセスできる環境も用意する」――。米AutodeskのCEO(最高経営責任者)であるアンドリュー・アナグノスト(Andrew Anagnost)氏は、同社が注力する設計のためのAI(人工知能)機能群「Autodesk AI」の利用に向けて、こう強調する(写真1)。

写真1: 米AutodeskのCEO(最高経営責任者)であるアンドリュー・アナグノスト(Andrew Anagnost)氏

 AI技術の価値を引き出すには、品質を担保されたデータの存在が不可欠である。加えてAutodeskは、設計データなどを設計部門以外とも共有し、設計から生産、販売、保守サービスまでのプロセス連携を狙っている。それだけにアナグノスト氏は、「チームとプロセスを接続するには、皆さんが持つデータを接続しなければならない」とも指摘する。

設計データをきめ細かく分解・管理し、ソフトウェア間での連携を強化

 Autodeskがソフトウェア連携のためのクラウド基盤として提供するのが「Autodesk Platform Services(APS)」である。2次元CAD(コンピューターによる設計)ソフトウェア「AutoCAD」などが持つ設計データに対し、サードパーティ製品と連携するためのAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)や、データ変換のためのコネクターの開発を可能にする。

 設計データは「DWG」や「RVT」などのファイル形式で作成されるが、目的や用途が異なるソフトウェア間でのデータ連携には適さない。そこでAPS上では、データモデル「Autodesk Data Model」を使って設計データを構造化し管理する。設計データをコンポーネント単位に分解した「粒状データ」として管理することで、複数モデルの検索や、データの世代間での比較を可能にしている。

 米Autodeskで製品開発・製造ソリューションを担当するエクゼクティブ・バイス・プレジデントのジェフ・キンダー(Jeff Kinder)氏は「データ管理は、個人のニーズに加え、組織全体のニーズにまで対応する必要がある。社内のチームだけでなく、ベンダー、請負業者までもが適切なデータに、適切なタイミングでアクセスできるようになる」と話す(写真2)。

写真2:米Autodesk 製品開発・製造ソリューション エクゼクティブ・バイス・プレジデントのジェフ・キンダー(Jeff Kinder)氏

 データモデルとしては既に、製造業のための「Manufacturing Data Model」と、建設業のための「AEC(Architecture, Engineering, Construction)Data Model」を提供している。今後、メディア・エンターテインメント(M&E)業に向けた「M&E Data Model」を投入する予定だ。

 Manufacturing Data Modelでは先ごろ、PDM(Product Data Management:製品情報管理)ソフトウェア「Vault」がクラウド対応になり、製造業向けクラウド「Fusion」との連携が実現した。Vault上で保存・管理する設計データをFusionから直接利用できるほか、機械設計向け3D(3次元)CADソフトウェア「Inventor」などの設計データとの同期ができるようになった。

 Fusion上でのデータ連携の事例として挙げるのが、インドのVayve Mobility(ヴェイブ・モビリティ)での活用だ。同社は、渋滞が慢性化しているインドの交通事情に合わた小型のソーラーEV(電気自動車)の「Eva」や電気タクシー「CT5」を開発している新興EVメーカーである。

 Vayve Mobilityでは、従来使用していたソフトウェアで作成した設計データをManufacturing Data Modelに変換してFusionに取り込むことで、初期のプロトタイピングやレビューにパートナーとも連携しながら取り組んだ。キンダー氏は「概念設計から検証・製造までをFusion上で実行している」と説明する(図1)。

図1:インドのVayve Mobilityは、小型EV「Eva」のコンセプトデザインをFusion上で実施した