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トヨタも舵切るオープンイノベーション、日本発MaaSは成功できるか?

SAP NOW、オープンイノベーションのパネルより

奥野 大児(ライター/ブロガー)
2018年8月20日

日本はモビリティーで世界をリードできるのか

 自動車メーカー同様に将来を読み込んでいる印象を与えた積水化学は、どのようにして、そうした着想をまとめあげているのか。その方法について林氏は、「オランダ政府が推進する産官学連携の仕組みである『オープンイノベーションキャンパス構想』に参加することで、技術的難易度への挑戦と事業化のスピードアップの両立に取り組んでいる」と説明する。

写真5:積水化学工業が参加するオランダの「オープンイノベーションキャンパス構想」の位置付け

 林氏によれば、「従来の研究開発は、基本部分は自社で対応し、高度な技術になれば大学や研究所などに依頼してきた。だが事業化のスピードは遅くなりがちだった」。これに対し、オランダのオープンイノベーションキャンパス構想では「産官学それぞれが中立的な立場で技術・プロセス・人を提供することで、技術開発に取り組み事業化の速度を高めている」(同)という。

 そのオランダで積水化学は「色を自由に変えられるガラスや、透過性のあるディスプレイ、AR(拡張現実)や3D(3次元)表示ができるヘッドマウントディスプレイなどを開発している」(林氏)。

 これに対し、rimOnOの伊藤氏は、官僚時代に取り組んだ日本版スマートグリッド構想時の経験から、日本の産官学連携が十分に機能しない理由を次のように説明する。

 「本気で取り組みたい企業からの提案に対し支援策を検討し始めると、その企業と競合する企業が、本気度がそう高くないにも関わらず対象企業に名乗り出してくる。結果、補助金などは複数社に分散され実行力が弱くなる。加えて、報告会では、本気の企業が情報を各社にオープンにせざるを得ない。これでは本気になっても何も良いことがない。ただでさえ絶対額が少ないにもかかわらず、広く薄くの支援策では、グローバル競争には勝てない」

 ここでトヨタの山本氏は、オープンイノベーション時代の“独占”について「オープンにするところを定めたうえでの新規参入者が増えている。周辺にマーケットができ、全体的なエコシステムになっていくからだ。かつての米MicrosoftのPC用基本ソフトウェア(OS)や米Googleの検索サービスといった形である。そうしたエコシステムのための“場”を仕切るのが、今どきの“独占”だ。仕組みを握る企業が独占できる状況が完成する」との見方を述べた。

 そのうえで「トヨタもかつては、自社グループ内で完結しようとしてきたが今は違う。先日も豊田 章男 社長が『未来のクルマ作りを一緒にしたい人、この指とまれ!』と呼び掛け、自動車業界外とのアライアンスパートナー作りに舵を切っている。お陰様で、さまざま企業から問い合わせを受けている」と強調する。

 確かに日本の産官学連携は決して成功しているとは言えない。だが、トヨタのオープンイノベーションへの転換や、ベンチャー企業の芽生え、素材メーカーの変革など、イノベーションのためのピースは充実している。

 今後、これらのピースがどこまで有機的に連結し、オープンイノベーションを実現していけるのかが問われているようだ。