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デジタルトランスフォーメーションに向けた“技術と経営の融合”は起こるのか

戦略討論会 ~ 今求められる「技術と経営の融合」とは? 実践すべきデジタル戦略とアプローチを激論!~ より

奥野 大児(ライター/ブロガー)
2019年9月3日

――スクラムの源流はトヨタ生産方式なのに、なぜITでは思考停止するのか。

成迫  トヨタ生産方式を実施しているのは生産現場だけです。当社にも、トヨタにもパナソニックにも、生産現場以外に現場力はありません。バリューチェーンを考えるのに、ユーザーを見に行かず会議室で議論ばかりしている。まさに現場力がないと言えるでしょう。

 イノベーションのための経営戦略などもスクラム的な考え方が忘れられています。本来、日本が強かったカイゼンをはじめ現場中心にイノベーションすることが忘れられているのです。個別サイクルだけで全体サイクルを考えることがない。そこが日本企業全体の大きな課題ではないでしょうか。

原田  組織のマインドセットを作らなければなりません。成果だけをみては駄目なのです。プロセスを見なければならず、プロセスのためには文化も鑑み、それをKPI(重要業績評価指標)にしなければなりません。

 現地現物主義で常にカイゼンを考えるのがトヨタスタンダードですが、ITの場合、あるべき姿の本質を考えていないではないでしょうか。世の中でITの役割が変わってきている今、本当の意味でのトヨタスタンダードが見えてこないのではないでしょうか。

成迫  日本では、本質が叫ばれている時でも手段に踊らされるんです。結局、儲かっているのはITベンダーだけ。コストが掛かるわりに成果がでないということがありますね。

――事業会社は技術とどう向き合えば良いのか。

成迫  考えたら、とにかく早く安く作る。そして作りながら考えようということです。自社のグループ内でソフトウェアを作れないと、考えついたことを実現するのに、RFPを書いて相見積もり取るだけで3カ月、リリースは6カ月後といったことになります。さらに追加工数がかかったりもする。

図3:デンソーは社内にシリコンバレー流を持ち込む

 手を動かす人が仲間としてワンチームにいないとだめなのです。ソフトウェアに限らず、すべてがそうでなければ、スピード感とコスト感は得られません。

 今のイノベーションの議論も同じです。昔から、そういうことが繰り返し起きているのです。かつて、貿易ができるのは商社だけでした。海外に支社を置けたのが商社だけだったのです。それが、国際電話ができたりEメールができたりするたびに商社の強みが減少しました。要は間で仲介する人がいらないとなってきたのです。

 「ユニクロ」も元々は小売りでしたが、顧客を掴むと、その趣味趣向が分かってくる。そこからSPA(製造小売業)という流れになり、自ら生産も手がけるようになりました。中間にいる人が減っていくのが合理的・効率的で、顧客ニーズに最も応えられるのです。

 今後、すべての企業は技術をもって中間を排除するようになります。それがディスラプション(破壊)です、Uberやamazon.comはまさにそうじゃないですか。技術がないと中抜きはできません。そういう技術を手の内に持たなければならないのです。

――DX人材を社内外から、どう集めれば良いのか。

成迫  「興味がある」と言う人は不要です。ほしいのは「どうしてもやりたい」という人です。そのために、ウソはつきませんが、楽しいバラ色の世界は見せます。それに納得したらジョインしてもらうという流れです。

安田  2019年7月に、楽天のエンジニアチーム「アジャイルモンスター」が、チームの3人が同時に移籍を宣言し、デンソーに入社しました。優秀なエンジニアがデンソーに入ったのは象徴的だと思います。

成迫  僕のチームに来たかっただけで、デンソーに来たかったわけじゃないと思いますよ。デンソーを変えようではなくて、自分のベクトルに共感してもらうことが大切です。インターネット上でFA宣言した彼らと話すだけ話して「来るなら来れば?」と言ったら来ちゃいました(笑)。

原田  尖った人材を10倍のお金を払ってでも連れてくるという動きがある中で、好循環が作れるかどうかが大切ではないでしょうか。

成迫  私の採用基準としては「コードが書けること」ですね。自分で手が動かせる人の集団にならなければならないからです。

原田  外からコードを書ける人を採用するだけでなく、中の人を書けるようにするほうが良いかもしれません。

成迫  かつてパナソニックではエンジニアが1000人規模で余ったことがある。彼らをグループ会社に預け、コードが書けるように再教育してもらい、戦略化していった。そうした工夫を経営危機に陥る前に実施してみることが大切です。