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スクラムは知識創造プロセスそのもの、すべては“エンパシー(共感)”から始まる

野中 郁次郎 一橋大名誉教授と平鍋 健児 Scrum Inc. Japan取締役

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2019年10月4日
写真1:対談する野中 郁次郎 一橋大学名誉教授(左)と平鍋 健児 Scrum Inc. Japan取締役

デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが本格化するなか、注目が集まるのが、アジャイル(俊敏)なソフトウェア開発手法として誕生した「スクラム(Scrum)」である。最近は企業文化のイノベーションを起こすためのチームづくりのための手法として着目されている。スクラム誕生の理論的基盤となった論文を執筆した一橋大学の野中 郁次郎 名誉教授と、Scrum Inc. Japan取締役の平鍋 健児 氏(永和システムマネジメント代表取締役社長)が、スクラムが今、重要視される背景や、そこでの重要な考え方などについて対談した。(構成は志度 昌宏=DIGITAL X編集長、文中敬称略)

野中氏、平鍋氏、サザーランド氏らが登壇する「Scrum Interaction 2019」が2019年11月8日に開催されます。申し込みページにてプロモーションコード「impress」を入力するとチケットが20%オフになります。

Scrum Interaction 2019公式ページ

Scrum Interaction 2019申し込みページ

平鍋 健児(以下、平鍋)  Scrum Inc. Japan取締役の平鍋 健児です。野中先生が1986年に竹内 弘高先生と共著で出された論文『The New New Product Development Game(新しい新商品開発ゲーム)』で示された「スクラムアプローチ」にインスパイアされ、Scrum Inc.の創業者であるジェフ・サザーランド氏らがソフトウェア開発手法として「スクラム(Scrum)」を開発しました。そのスクラムが今、ソフトウェア開発手法としての期待に加え、企業の組織改革のための手法として脚光を浴びています。

 そうした背景もあり2019年1月に、Scrum Inc.とKDDI、永和システムマネジメントの3社で、日本法人Scrum Inc. Japanを立ち上げ、強い日本企業を作るお手伝いを始めました。野中先生が提唱されている「知識創造」の考え方が今まさに、求められていると実感しています。

野中 郁次郎(以下、野中)  行き過ぎた株主資本主義の見直しが世界的に始まっているからでしょう。

写真2:一橋大学名誉教授の野中 郁次郎 氏

 実は2019年7月に、英エジンバラにあるアダム・スミスの旧宅において「新重商主義世界における資本主義とグローバル秩序の再構築」をテーマにした会議が開催され、私も参加してきました。米カリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクールで経営戦略論などを専門にするデイビット・ティース教授らが議長を務めました。

 アダム・スミス旧宅という会場に大きな意味があります。アダム・スミスといえば『国富論』(1779年)が知られていますが、実はその前に『道徳感情論』(1759年)を出版しています。これは、公平な第3者を介した「シンパシー(同感)」の有効性を説いたもので、経済成長において倫理が働くことを求めているのですが、その部分が忘れ去られているのです。

 同会議では、株主価値の最大化は間違っていると合意したうえで、顧客に向き合う「顧客第一主義」や従業員の復権の重要性が強く主張されました。株主資本主義に基づくROE(自己資本利益率)偏重の考え方は、結果的に株主にリターンをもたらさないという結論です。

 つまり、デジタル時代において顧客の変化にダイナミックに対応できる能力や、知識社会のイノベーションを実現するためのチームの重要性が高まっているのです。これは、まさにスクラムが目指すところでもあるでしょう。

平鍋  スクラム以前のソフトウェア開発では計画主導、トップダウンのウォーターフォール型が主流でした。

写真3:Scrum Inc. Japan取締役の平鍋 健児 氏

野中  株主資本主義では、従業員は「Human Resource:人的資源」だといわれ、原材料などの資源同様に使い捨ての要素に位置付けられていました。スクラム以前のウォーターフォール型でのプログラマーも同じでしょう。しかし、人はモノではありません。人は資源を生み出す主体なのです。世界は今、人間性の復権に向かっているのです。