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既存企業の破壊力はスタートアップ以上、本質を考え大きな視点での取り組みを

米Star創業者 兼 会長 ユハ・クリステンセン氏が迫る日本のDX最前線〜山口 重樹 NTTデータ副社長との対談から

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2019年10月28日

――両社ともグローバルに事業展開していますが、DXへの取り組み姿勢において、日本企業と海外企業で大きな違いはありますか。

クリステンセン  日本企業と海外の企業との間に日本企業が思うほど大きな違いはないと思います。大手企業がDXに取り組むに当たって直面する課題は世界共通です。

 デザイン思考型開発のプロセスの第1歩は、最終ゴールを見いだし、内部破壊のプロセスの後に、どこに進みたいのかを事業会社自らが明確に定義することです。その最終ゴールから逆算し、どう変革するかがスタートします。このアプローチと手法は、グローバルに有効ですし、業界も問いません。

山口  DXに取り組む姿勢は日本と海外で大きくは変わらないのかもしれませんが、スピードという面では中国は凄いですね。特にデジタル化を推進するリーダーに与えられている権限が大きく、何でも、その場で決断し前へ前へと進んでいます。

 私は、DXとは技術の問題ではなく、テクノロジーを経営にどのように活用するのかの問題だと考えており、その点では日本と海外は変わりません。実際、当社は日本を代表する多くの先進的企業のデジタルプロジェクトを実施してきました。そこでは、企業の経営層がプロジェクトを直接指揮される場面が非常に増えてきています。つまり経営層のデジタルへのコミットメントが重要なのです。

 そうした点を多くの経営者にお伝えしたく執筆したのが、神戸大学大学院 経学研究科の三品 和広 教授との共著『デジタルエコノミーと経営の未来』(2019年7月、東洋経済新報社)です。デジタル化に向けては、本質を考え大きな視点で取り組む必要があります。

――ところで、NTTデータはStarに資本参加しました。お二人のDXやデザイン思考への考え方は共通なようですが、日本の巨大インテグレーターと米シリコンバレーのスタートアップ企業の組み合わせは、うまく機能しますか。

山口  「本当にうまくいくのか」とは良く聞かれます(笑)。しかし、それは当社を従来のシステムインテグレーターとみるからです。当社はシステム開発だけでなく、コンサルティングやサービスデザインなどに強みを持つ人材が国内外で活躍しており、Starとは強力なタッグを組めると考えています。

 冒頭でお話ししたように私は、いくつもの新規事業を立ち上げてきましたが、既存組織とのバランスを取るのは、なかなか難しいものです。既存組織は効率化で成長できるため新しいことに踏み出す意義を見いだしにくいからです。かといって新規事業を独立させると大企業の強みを活かせません。

 ですので、利益を出しながら新規事業を取り組むには、両者を同じ尺度でマネジメントするのではなく、新規事業には、その重要性を考えられる人材を振り向け専念させなければなりません。それを実現するため、既存組織とは分けて、別組織を作っています。

 また当社は、すでに海外売り上げが約40%を占めるほどにグローバル化が進んでおり、海外ではデジタル化やデザイン思考を積極的に提案しています。そのためイタリアには、デザインのための人的ネットワークを構築し、400人のデザイナーを抱えています。

 しかし、それでも量的・質的にデザイン人材が足りません。当社が支援する顧客の規模に合わせ、当社のシステム開発力を最大限に生かすためには、最初のデザインが重要だからです。

 Starとは1年前から対話してきました。ワンチームとしてプロジェクトに携わることで、当社の人材がStarが持つデザインの専門性を身に付けていけば、提携の成果が得られるはずです。

クリステンセン  デザイン思考型開発では、我々が顧客の中に入り込み、心を開かせ、最終ゴールの重要性を認識させることが不可欠であり、顧客と正しいパートナーシップを結べなければなりません。そこでは当然、NTTデータと当社の間にも信頼できるパートナーシップが必要です。今回、山口さんと対話し、強力な提携になることを改めて強く確信できました。

――両社の提携で日本企業のDXが進展することを期待します。お2人とも今日は、ありがとうございました。

対談を終えた米Starのユハ・クリステンセン氏(左)とNTTデータの山口 重樹 氏