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ワインづくりはAIでどう変わっていくか?サントリー×NSSOLがぶどうの収穫量を予測〔PR〕

2021年2月3日

ぶどう収穫に影響を与えないAI予測のモデル作り

――NSSOLの事業領域は製造や金融のイメージが強いですが、農産物の収量予測などスマート農業分野への取り組んでいたのでしょうか。

森屋 和喜(以下、森屋)  NSSOLのIoXソリューション事業推進部 エンベデッドソリューションユニット 部長の森屋 和喜です。当社では今回のプロジェクトの直前に、きゅうりの栽培における葉の茂り具合をAIの画像解析で判断するというプロジェクトを手掛けていました。そこでの経験が、ぶどうの収穫量予測にも生かせると確信し、協力を申し出ました。

写真3:日鉄ソリューションズ IoXソリューション事業推進部、エンベデッドソリューションユニット 部長の森屋 和喜 氏(左)と、同推進部の高畑 紀宏 氏(中)、同推進部の徳竹 眞人 氏

――AIによる収穫量予測とは具体的にどういった仕組みでしょう。

徳竹 眞人 氏(以下、徳竹)  端的に説明すれば、台車に取り付けたRGB-Dカメラを用いて、収穫の2週間前にぶどう畑の一部を撮影し、その画像を解析して畑全体で収穫できるぶどうの重量を予測するというものです。収穫の2週間前頃から、ぶどうの実りには大きな変化はないことを踏まえています。

 予測のためのアイデアは3つありました(図1)

図1:収穫量予測の3パターン。本プロジェクトではC案を採用した

 A案は、画像から直接的に重量を推定して合算する方法。B案は、画像から房の数を検出し、それに平均重量を掛け合わせて総重量を算出する方法。そしてC案は、画像から房の大きさを推定し、大きさに紐づく重さのデータから計算する方法です。

 今回、採用したのはC案です。A案では、画像から直接重量を算出するため、ディープラーニングを適用するには、画像に対応する重量の教師データが大量に必要です。この教師データは収穫時にしか取得できず、大量のデータを取得するのは非現実的です。B案では、年や畑毎に平均重量はかなりのばらつきがあるため、結局予測のために毎年ぶどうのサンプリングを行う必要があり、AI適用の恩恵が小さくなってしまいます。

 両案に対してC案は、房の大きさと重量は極めて密で単純な関係にあるため、必要な教師データ数を格段に抑えられます。モデルの普遍性が高いという特徴もあります。ぶどうの収穫量は、樹木が成長するに従い劇的に増えていくため、これからの成長過程にあっても、再調整がしやすいというメリットが得られます。

 農業分野でのAI活用の難しさは、データの取得頻度が限られることです。国内のぶどう栽培なら年に1回ですから、短期間に試行錯誤を繰り返すということもできないため、気候の異なる複数の畑で、時期をずらして実験するなどの考慮も不可欠です。

 予測の方針が固まってからは、2019年秋の収穫期にデータを実際に収集しました。3ヘクタール弱ある畑にカメラを取り付けた台車を走らせ、房が葉に隠れても対応できるよう撮影角度の調整を始め様々な工夫を行い、2人で2日をかけて撮影しました。同時に129房のぶどうをサンプルとして収穫し、重量を計測しました。

写真4:収穫を待つスマート農業実証畑のぶどう

 撮影後は、取得した約800枚の画像を使って学習と評価を繰り返し、房の大きさを推定するモデルを構築しました。並行して129房の大きさと重量のデータも活用して、重量の予測モデルを作成しました。

 そして迎えた2020年秋には、収穫の2週間前に、いくつかの畝を選んでカメラを走らせ、撮影した部分について重量を予測。そこから統計的な処理により畑全体の収穫量を予測しました。撮影時にはカメラの位置や角度の推定アルゴリズムを応用し、房の重複カウントや見逃しによる影響を排除することにも成功しました。