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トヨタ自動車、“市民開発”で工場のデジタルカイゼンを推進

Power Platform + Teamsで現場が求めるアプリを現場で開発

2022年12月5日

Teamsでの個人の勉強会が市民開発の全社展開につながる

——そもそもトヨタがPower Platformを使った市民開発に踏み出すきっかけは、どこにあったのでしょう。

永田  私が2020年1月、マイクロソフトの年次イベント「Microsoft Ignite」に参加したことが大きなきっかけの1つになったと思っています。多くのセッションで、Power Platformを使ったアプリ開発のデモを見たのですが、15分程度の短い時間でスマホアプリが完成するというスピード感に圧倒され、時代が大きく変わったことを痛感しました。

 当時、私はレガシーシステムを担当し、老朽化したハードウェアの更新や、基本ソフトウェア(OS)のバージョンアップ、サポートが終了したミドルウェアへの対応などで苦労していました。クラウド環境にあるPower Platformなら、これらの苦労から解放されると感じました。習得も容易に感じたため、各業務の担当者自身によるデジタル化を推進できると直感したのです。

 当時、トヨタではすでにオフィスアプリとして「Microsoft 365」の利用が可能でしたので、同ライセンスに含まれるPower Platformも利用できると考えました。ただセキュリティの懸念などを理由に、情報システム部門が利用を制限していました。

 そこで、制限緩和のきっかけ作りとして、社内の潜在的なニーズの発掘と仲間づくりをしようと、コラボレーションツール「Microsoft Teams」上にPower Platformの社内技術コミュニティを立ち上げました。活動を開始した2020年夏には、ごく限られたメンバーでの活動でしたが、自作アプリの紹介や勉強会などの地道な啓蒙活動によりメンバーが雪だるま式に増えてきたことで、情報システム部門の協力を得られるようになりました。

 日本マイクロソフト様からも、ハンズオンセミナーやワークショップの開催などの支援を受けながら、市民開発の土壌を醸成していったのです。

 結果として、2021年2月からPower Platformを全社で正式に利用できるようになりました。社内技術コミュニティも今では6000人以上が参加するまでに広がってきています。田原工場でも意識の高い取り組みがなされていますが、ほかにも多くの部署や拠点で市民開発に向けた自律的な活動が高まってきています。

𠮷田  何かを新しく始める際には、そのための学習が欠かせません。その点、永田さんがTeams上に立ち上げた技術コミュニティや事例を共有する機会は、田原工場の大勢の仲間にとっても非常にありがたいものでした。

デジタルなカイゼンが若手の働き方とやりがい感を変える

——今後、市民開発をどのように広げていきますか。

𠮷田  最優先課題はアプリを開発できる人材の育成です。田原工場のエンジン製造部には約1100人が所属していますが、そのうち現段階で実用レベルの開発ができるのは10人ほど、チャレンジ中が20人程度に限られます。デジタルカイゼンの幅を広げるため2023年には、専任チームを編成し開発者の育成を加速すると同時に、実用化事例の拡大を課題として進めていく予定です。

写真6:工場内にある詰所内で現場の担当者が市民開発に取り組む

 開発対象も多方面に考えてみたいと思っています。外注しているシステム開発も、長期的には内製に切り替えることを視野に入れ、制御系アプリについても、できる範囲から市民開発を模索してみようと考えています。

 ただ、チャレンジ対象が広がると、現場の課題に集中し視野が狭まりがちな自分達のアイデアだけでは限界があります。これまでも、日本マイクロソフト様主催のユーザー会などを通じて、大手鉄道会社様はじめ多くの企業・業界との接点も持つように心掛けてきました。そうした機会からの学びや気づきを大切にして成果につなげたいと考えています。

小金澤  目下の私の最大の悩みは、ジョブローテーションです。アプリ開発だけでは、トヨタが必要とする人材は育たないからです。現場を知り、デジタルを知り、カイゼンを繰り返すことで、それまで知らなかった業務の実態が見えてきます。そうした人材が上に立ち組織を支えるのです。市民開発は、まだ始まったばかりのため判断は難しいですが、何としても良い方法を見つけ出します。

 この活動を通じて気付いたこともあります。市民開発には若手が積極的に取り組んでおり、みな活き活きしています。リアルなカイゼン現場では普段、若手はベテランに教えを乞う立場であるのに対し、デジタルカイゼンの領域ではベテランとも対等な立場で議論できるため、若手のやる気がとても活性化されているのです。

 豊田社長のデジタル化宣言が、現場の意識を大きく変えていることもありますが、デジタルカイゼンは、これからのモノづくりや働き方における大きな武器になると感じています。

永田  田原工場以外でもPower Platformを使った市民開発が急速に広がっています。活用現場が広がることは推進担当者として嬉しいことですが、なんでも自由な状況では、カオスな状態になりかねません。自由な発想を最大限に引き出しながら、トヨタとしての全体最適を図るためには、一定のガバナンスが必要だと考えています。

 今後、現場と情報システム部門のそれぞれと協力しながら、自治会的なルールを作っていくことが当面の私の課題だと考えています。

写真7:トヨタの旗艦工場である田原工場で市民開発を牽引する主要メンバー

お問合せ先

トヨタ自動車

URL:https://www.toyota.co.jp/

日本マイクロソフト

URL:https://www.microsoft.com/ja-jp/