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トヨタ自動車、“市民開発”で工場のデジタルカイゼンを推進

Power Platform + Teamsで現場が求めるアプリを現場で開発

2022年12月5日

トヨタ自動車が、デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みを加速させている。豊田 章男 社長が2021年3月、デジタル化について、「この3年間で世界のトップ企業と肩を並べるレベルにまで一気に持っていきたい」との考えを示したことがきっかけだ。事業のサービス化に加え、現場の担当者自身がアプリケーションを自作する「市民開発」にも力を入れる。先行する現場の1つが、レクサスなどを製造する田原工場。同工場の中核メンバーに、市民開発の狙いや現状、将来展望などを聞いた。(文中敬称略)

——トヨタ自動車では豊田 章男 社長の「デジタル化を3年間で世界のトップ企業と肩を並べるレベルにまで一気に持っていきたい」という考えが示されて以降、デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みを加速しています。

𠮷田 保正(以下、𠮷田) :田原工場 エンジン製造部 技術員室 主幹の𠮷田 保正です。私の役割は、工場が常に取り組んでいる、安全・環境・品質・生産・原価などに対するカイゼン活動を技術面から推進することです。現在、そのカイゼンにデジタル技術を活用する工場のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めています。その一環として、工場現場で働く担当者自らがプログラムを開発する「市民開発(Citizen Development)」に力を入れ始めました。

写真1:田原工場 エンジン製造部 技術員室 主幹の𠮷田 保正 氏

「3年でデジタル化トップ」には現場の参加が不可欠

 田原工場は、敷地面積が370万平方メートルと国内に11あるトヨタの工場の中で最大規模を持ち、8000人弱が働いています。生産しているのは、高級車の「レクサス」とオフロード車の「プラド」など、そして各車に搭載するV型6/8気筒のエンジンです。船積み用の埠頭やテストコースも備えています。

 デジタル化そのものは今に始まったわけではありません。近年では品質管理のためのAI(人工知能)システムやローコード感覚で利用できる協働ロボットの活用にも取り組んできました。ボードコンピューターを使った制御システムの自作も進めており、「ラズパイ工房」と名付けた専門チームの活動もスタートしています。

 現場にはカイゼン活動の文化が根付いているだけに、「市民開発」はDXを“自分ごと”にするためにも良いキーワードだと感じています。豊田社長のデジタル化宣言以降は、従来に増して身を引き締めています。

小金澤 孝之(以下、小金澤) :田原工場エンジン製造部 第2鋳造課長の小金澤 孝之です。エンジンの鋳造工程全体をマネジメントしています。「3年で世界トップレベルに」という大号令には正直、戸惑ったのは確かです。まずは「何をどうすべきか」をとにかく考えました。

写真2:田原工場エンジン製造部 第2鋳造課長の小金澤 孝之 氏

 3年後という目標を達成するためには工場の参加は欠かせないはずです。同じような境遇にある他工場とも情報を交換し、𠮷田さんや賛同する仲間たちと共に田原工場エンジン製造部としての市民開発への取り組みを試行錯誤しながら、現場への浸透を図っているところです。

永田 賢二(以下、永田) :デジタル変革推進室 デジタルTPS推進グループ 主任の永田 賢二です。私は、ノーコード・ローコードの開発環境「Microsoft Power Platform」を使った現場での市民開発を後押ししています。

写真3:デジタル変革推進室 デジタルTPS推進グループ 主任の永田 賢二 氏

 グループ名にある「TPS(Toyota Production System)」は「トヨタ生産方式」のことです。TPSにデジタル技術を加え、現場のアイデアを自由に形にしてもらうことで、より良いTPSの実現を推進したいと考えています。

 TPSでは一般的な業務システムを開発する際には業務フロー図のような「モノと情報の流れ図」というものを書きます。そうした企業文化があるため、市民開発によるシステム構築は全社的に親和性は高いと予想しています。