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物流DXに取り組む業界トップ企業が描く物流のこれから

CIO Japan Summit 2022パネルディスカッションより

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2023年1月6日

池田 和幸 氏(以下、池田)  アスクル 執行役員 CDXO テクノロジー本部長の池田 和幸です。2022年3月に「CDXO(Chief Digital transformation Officer)」という職に就きました。それまではロジスティクス分野に約8年、その前はIT部門にいました。8年ぶりにIT分野に戻ってきています。

写真3:アスクル 執行役員 CDXO テクノロジー本部 本部長 池田 和幸 氏

 当社は、法人向けと消費者向けのEC事業を展開しています。国内小売りにおけるEC率は8~9%ですが、中国や韓国、欧州では20%を超えており、EC市場は、まだまだ伸びると考えています。一方で物流は、かなりの人手不足で、ECが抱える構造問題です。この課題に対しアスクルは2つの挑戦をしています。

 1つは、物流センターなど労働集約が可能なところでは、できるだけ機械化・システム化を図ることです。従来のITの知見を生かし、ロボティクス技術を積極的に導入し、人手による作業を減らしています。

 もう1つは、配送効率を高めるための仕組み作りです。国内のトラック輸送業界は中小事業者の比率が高く、システム投資ができない企業が多いです。そうした中小の配送事業者様には当社が開発している配送システムを、「アスクルの荷物だけでなく、アスクル以外の荷物を運ぶのにも使ってください」と声をかけながら提供しており、複数の配送事業者様に利用いただいています。

 課題は、まだまだありますが、全体として効率が良くなった分、モノがより多く運べるようになってきています。

デジタル技術を使った付加価値やサブスク型の提供へ

津吹マイケル(以下、津吹)  日本郵便 ロジスティクス事業部 物流ソリューション営業室長の津吹マイケルです。ロジスティクス全般を担当しています。今はDXやデジタルファーストの変革期ですが、これが進んでいくと請求書なども電子化され、郵便物はどんどん減少していきます。そのため日本郵便グループでは、中期経営計画「JPビジョン2025 ~お客さまと地域を支える『共創プラットフォーム』を目指して~」を掲げ、2025年に向けた2つの大きな柱を示しています。

写真4:日本郵便 ロジスティクス事業部 物流ソリューション営業室長の津吹マイケル氏

 1つはオペレーション改革であり、そのキーワードは「データドリブン」です。「ゆうパック」や「ゆうパケット」を使っていただけるよう、デジタルの力を活用し顧客の利便性を高めていきます。これを社内では「PDX(Post DX)」と呼んでいます。

 もう1つの柱は、配送の高度化で、そのキーワードは「物流ソリューション」です。自社内・グループ内のDXだけでは業界の課題に打ち勝てません。さまざまな事業者、荷主、着主と横断的につながることがカギになり、そうした仕組みに対応できないと生き残れません。

 そこで日本郵便では、日本全国に広がるリアルな郵便局のネットワークと、デジタル郵便局を融合し、新たな価値の創出を考えています。デジタルファーストの潮流に乗り遅れないように構造改革を進め、リアルとデジタルの融合による付加価値の向上を目指しています。

稲葉 英毅氏(以下、稲葉)  野村不動産 都市開発第2事業本部 物流事業部長の稲葉 英毅です。物流施設の開発・運営を担当しています。

写真5:野村不動産 都市開発第2事業本部 物流事業部長の稲葉 英毅 氏

 最近、インターチェンジのそばに建つ大きな建物を見る機会が増えていると思います。日本では小規模な物流施設が多かったものが、2000年頃に外資企業が東京・大田区に約2万坪の物流施設を建てたことをきっかけに、大規模高機能型の物流施設の開発が増えてきました。

 国土交通省の倉庫着工統計によると、日本全国の物流施設の40年間の総面積は約1億2000万坪。うち3000坪以上の大規模高機能型物流施設は約10%ですが、昨今は年間100万坪以上が新設されるなど新規開発量が伸びています。新しい物流施設は、休憩室や食堂、シャワールームなど働く人への配慮や、太陽光発電など環境に配慮も進んでいます。

 そのうえで課題になっているのが機械化・省人化です。中小の物流企業は機械化・省人化に投資しづらいという点に対しても、我々デベロッパーがサブスクリプション形式など利用形態に合わせた方法で、配送ロボットやバース(荷降ろし場)管理システムなどを含めて提供できれば、2024年問題や宅配便の課題を解決できるのではと考えています。