- Talk
- 医療・健康
“人”の体験価値を高めるDX、小野薬品工業×NSSOLが取り組むヘルスケアデータ活用の“攻め”と“守り”
データの入口から出口までを織り込んだ匿名化・仮名化を実現
- 提供:
- 日鉄ソリューションズ
創業300年を超える小野薬品工業が、デジタルトランスフォーメーション(DX)戦略の一環として全社データ活用基盤「OASIS」を立ち上げた。その目的の1つに、部署ごとに閉じてきたデータ活用の“サイロ化”を解消し“全社横断”のデータ活用の実現がある。だが、新薬開発などに関わる医療データの取り扱いには特に注意が求められる。そのため匿名化・仮名化といった対応の検討・実行を日鉄ソリューションズ(NSSOL)が支援した。医療データ活用に向けた取り組みや今後への期待を、OASISプロジェクトの担当者が語った。(本文敬称略)
──製薬業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)が本格化するなか、小野薬品工業は医療データ活用を柱とするDX戦略を打ち出しています。
山下 信哉(以下、山下) :小野薬品工業 デジタル戦略企画部 データ戦略企画推進室 主幹部員の山下 信哉です。創業300年を超える当社は常に、小野にしかできない挑戦を続け、革新性や独創性が高い新薬を生み出してきました。
医療・ヘルスケアに関係するすべての人の体験価値の向上を
企業理念を実現し、当社らしい挑戦を加速するために打ち出した当社のDX戦略は“人”を中心に据えているのが特徴です。DXは一般に、技術中心の取り組みだととらえがちですが、当社では、患者とその家族、医療従事者、従業員など、医療・ヘルスケアに関係するすべての人に新たな体験価値を届けることが重要だと考えています。
製薬会社である当社は、多くの部門が種々のヘルスケアデータを保有しています。例えば、創薬における薬事承認を取得するために収集している臨床試験データや、新たな医療エビデンスを構築する目的で医療機関から収集する臨床研究データや安全性情報などのデータです。今後は、健康・医療・介護に関する個人情報であるPHR(Personal Health Record)をスマートフォン用アプリケーションなどで収集することも一般化してくるとみています。
これらのヘルスケアデータは、個人情報保護法の2度の改正により、「匿名加工情報」や「仮名加工情報」に加工すれば取得時に設定した目的以外に利用する二次利用が法的に可能になりました。この環境変化を当社は変革のドライバーととらえ、データを保護し種々のリスクを抑えながら、高度なデータ解析ができる環境を実装することにしました。
データ活用における“攻め”と“守り”を両立する
──小野薬品工業としては、どのようなデータ活用を目指すのでしょうか。
山下 :AI(人工知能)・ビッグデータの時代を向かえた今、時代に対応しつつ会社全体でDXを推進するためには、これまで以上にデータの活用が求められると考えています。そのなかでDXが成功するためには、“攻め(推進)”と“守り(保護)”の両輪が重要だと言われています。
“攻め(推進)”は、上述したようなデータ活用における対象データや利用範囲の拡大が中心になります。さまざまなデータを予測や意思決定に活用するためには、高度な解析技術や、それに耐えうるデータ活用基盤が必要になります。
一方の“守り(保護)”では、最近のキーワードで言えば「デジタルガバナンス」の概念が重要になります。データを保護しつつ、リスクを抑えながら、データをいかに活用するかという、保護と活用を両立できる仕組みを構築しなければなりません。
ヘルスケアデータは従来、それを収集した部門がデータオーナーとして、目的外利用が起こらないよう厳格に管理してきました。しかし二次利用をうながすためには、部門を問わず必要なデータにアクセスできるよう、データ管理のあり方を見直す必要があります。
そもそも企業の責務として、ヘルスケアデータには厳格な管理が求められています。二次利用に向けた追い風があるとはいえ、万一、個人情報の扱いが原因で何らかのインシデントが発生すれば、企業の社会的信用を失墜させるリスクがあります。
ヘルスケアデータの二次利用に向けた“攻め(推進)”と“守り(保護)”をどう両立させるのか。この課題について当社では以前から議論を重ねてきました。結果、たどり着いたのが、全社共通のデータ活用基盤を構築し、その基盤上で二次利用を推進していくというコンセプトです。
具体的には、当社が「OASIS(Ono Advanced Scientific Insight Service)」と呼んでいる統合データ利活用基盤で、2022年8月に本番稼働しました。現在は、OASISへのデータ投入しながら、ヘルスケアデータの二次利用を現在進行形で進めています。