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物流DXに取り組む業界トップ企業が描く物流のこれから

CIO Japan Summit 2022パネルディスカッションより

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2023年1月6日

ロボットは24時間稼働し人の手が届かないところにも行ける

河合  アスクルは東京・江戸川に「ASKUL東京DC(ディストリビューションセンター)、以下東京DC」を新設しました。どのくらいDXが図られているのでしょう。

池田  東京DCは2022年夏に開所し、実際の出庫は11月からです。人が歩く量を減らすことに重きを置き、ロボティクスや大型の自動倉庫などの設備を導入しています。

 10年~20年前の物流センターでは、1万坪のうち9000坪以上を荷物の保管スペースとし、残りを事務室や手洗いなどに使っていました。今の物流センターでは、荷物を置くスペースは総面積の半分程度で、ロボットやコンベア、AGV(無人搬送車)など効率を高めるための機器を導入するケースが増えています。アスクルでは、荷物スペースを半減しても困らないように、取引先には情報を開示し需要を予測することで対応しています。

河合  ロボットより人間のほうが効率は高いという指摘もあります。生産性の面ではロボットの導入は効果的なのでしょうか。

池田  ロボットの導入が最も進んでいるのは3年前から取り組んでいる関西の物流センターです。ロボットの単位時間当たりの生産性は人の8割程度です。ただロボットは24時間稼働できるため、単位時間当たりの生産性は大きな問題ではありません。

 ロボットの導入については、倉庫の天井高である5.5メートルまで保管スペースをフルに活用できることも大きな効果の1つです。人が保管商品を扱うには高さ約1.8メートルが限界ですが、その3倍の高さまで、荷物を保管できるわけです。それらを考えてロボットを効果的に活用できるよう設計することが大切です。

拠点を集約すれば共同配送の計画が容易に

河合  受注から出庫までが自社内で完結すれば需要予測や在庫管理は容易です。しかし、SIPが進める地域物流では、荷主企業からの需要情報が得られにくいのではないですか。

早川  製造業の納期回答は、既に在庫があるか生産計画が成り立ってから出されます。その時点で運送事業者と情報を共有できれば、運送事業者側での計画的な配送計画が容易になりますが、荷主企業と物流企業のつながりが悪いのが実状です。

 地域物流のためのデータ基盤を用いた試験運用を2021年の8月から9月にかけて実施しました。東海地域と関東地域に集約拠点を2つ設け貨物を授受するケースでは、集配効率は、東海地域で約3割、関東地域で約2割高まる試算結果になりました。つまり、直前の運送依頼では、どうしても発生する車両の空きも、一度拠点に集約できれば効率的な計画が成り立つのです。ここがポイントです。

 また共同輸配送には、利益をどうシェアするかという課題もあります。荷主企業と運送企業だけではなく、共同配送における荷主間の分配についても議論しています。

河合  共同配送をはじめ、1社単独で解決できる課題は少なく、協創が求められます。

津吹  経産省と国交省は、物流のあるべき将来像として「フィジカルインターネット」の検討を始めています。日本郵便も同構想に則り、さまざまな事業者と交流しながら、輸送モデルを革新的に変えるための協創に取り組んでいます。佐川急便との業務提携や、楽天と資本提携などでは、他社が持つデジタルの力と当社が持つリアルな力を掛け合わせるのが狙いです。

 また99%を占める地域の輸送事業者と顧客をどうつないでいくかがカギだと考えており、中小企業との協創にも取り組みたいと考えています。

社内外での協創がDXの推進力に

稲葉  デベロッパーとしては、施設の付加価値を高める協創に取り組んでいます。2021年4月に開始した企業間協創プログラム「Techrum(テクラム)」では、荷主と物流企業の合理化に向けたソリューション開発を進めています。そのための検証拠点「習志野Techrum Hub」を千葉県・習志野にある物流施設「Landport習志野」に設けました。参画企業の連携や組み合わせた自動化機器の活用効果などを検証し物流オペレーションの最適化を目指します。

 こうした“場”を利用した協創ができることがデベロッパーの強みです。施設を通した仕組みの提案もデベロッパーが挑戦すれば面白いのではないかと思っています。

池田  社外の協創に加え、アスクルでは社内の協創、すわわちITと物流現場にも可能性があると考えています。ITに携わってきた立場から見ると、物流領域にはDXで効率化が図れる要素がたくさんあります。なのに、なぜDXが進まないのか。それは、ITと現場との協創の仕組みがないからです。

 そこで当社では、ITの人たちも3年ぐらい物流の仕事に携わるよう、リスキリングの機会を設けています。物流の実践値をつけて仕組みを改革していくのです。

 一方、現場の側にも、ロボティクスによる自動化で空いた時間に、ロボットの保守・運用を勉強する人が出てきています。現場の人がテクノロジースキルを身に付け、テクノロジーの人が現場のスキルを身に付けるようになれば、DXは自ずと進んでいくのではないでしょうか。

河合  社内外にかかわらず、協創によって物流業界が抱える課題を改善できる可能性が見えてきました。みなさん、ありがとうございました。