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“人”の体験価値を高めるDX、小野薬品工業×NSSOLが取り組むヘルスケアデータ活用の“攻め”と“守り”

データの入口から出口までを織り込んだ匿名化・仮名化を実現

2023年3月30日

新データ活用基盤でデータ活用プロセスを網羅的に支援

──OASISは、どのようなデータ活用基盤なのでしょう。

山下 :OASISは、小野薬品の各部門が保有しているヘルスケアデータや、商用のRWD(Real World Data)、広く公開されているオープンデータなどを横断的に分析できる統合データ活用基盤です。部門ごとに管理してきたデータを一元管理でき、これまで以上に強固なデータガバナンス体制を実現しました。

 ヘルスケアデータを二次利用し、多様な角度から分析することでデータの価値を最大にまで引き出せます。一層のエビデンス創出に対するニーズを満たすだけでなく、研究開発サイクルを短期化したり、新しいビジネスモデルを確立したりという効果も期待しています。

 OASISの最大の特徴は、データの管理だけでなく、データ活用プロセスにおいて必要な機能やサービスを網羅的に実装していることです(図1)。データを取り込む際のデータ設計から、取り込み時の形式変換、データのカタログ化、二次利用のための匿名化・仮名化、AIモデル開発、アクセス制御までをカバーしています。

図1:小野薬品工業の統合データ活用基盤「OASIS(Ono Advanced Scientific Insight Service)」の全体像

 いずれもデータ利用者の手をできる限り煩わさずに、安心・安全に多様なデータ活用に取り組んでもらうための“攻め(推進)”の施策です。そこでは、従来の各部門によるサイロ化した管理から脱却し、デジタル・IT部門と、データの管理者であり利用者でもある現場が共同でデータ基盤を整備・運用することで、データの流通をうながし、データの活用度を高めていきます。

 デジタル・IT部門と、部門や利用者との役割分担としては、OASISに取り込む前のデータはそれを保持する各部門がデータオーナーとして、OASISに取り込み二次利用する匿名化・仮名化したデータおよびシステム全体のセキュリティはデジタル・IT部門が、そのデータの利用に関しては利用部門が、それぞれに責任を負う体制にしました。

ヘルスケアデータの二次利用には明確な指針がない

──ヘルスケアデータの二次利用は、どのようなプロセスで進むのでしょうか。

山下 :2022年4月に施行された個人情報保護法や、認定個人情報保護団体である日本製薬団体連合会(日薬連)のガイドラインなどでは、匿名加工情報や仮名加工情報が定義されています。ですが、製薬企業が主に取り扱うヘルスケアデータを具体的にどう取り扱うのかについては、情報が少ないのが実状です。特に「仮名加工情報」の取り扱いは製薬業界には参考になる事例があまりない状況でした。

 そもそも製薬業界には、薬機法(正式名は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」)などのように業界特有の法律やガイドラインが多くあります。二次利用のためには、個人情報保護法も含めた、さまざまな法制度を踏まえたルールなどビジネスシステムの設計が必要になります。医療分野で知見の深いパートナー企業との協業を模索していました。

 OASIS構築に向けたベンダー選定を経て、日鉄ソリューションズ(NSSOL)にパートナーとして対応して頂くことにしました。NSSOLは、次世代医療基盤法に基づく政府認定事業において、実際に医療情報を匿名加工した実績を持つ、国内では数少ない事業者の1つです。統合データ活用基盤の構築実績もあり、技術面と業務面の双方からの支援を期待しました(関連記事)。

蓮井 涼祐(以下、蓮井) :NSSOL 社会公共ソリューション事業部 ソリューション企画推進部 技術グループ エキスパートの蓮井 涼祐です。当社の社会公共ソリューション事業部では、次世代医療基盤法に基づく認定事業に取り組んでいます。

写真2:日鉄ソリューションズ 社会公共ソリューション事業部 ソリューション企画推進部 技術グループ エキスパートの蓮井 涼祐 氏

 今回のOASISの実現に向けては、システム全体を当社の統合データマネジメント基盤「DATAOPTERYX」で運用。そのうえで二次利用のための匿名加工・仮名加工には、認定事業における匿名加工に利用実績がある匿名加工データ流通ソリューション「NSDDD\エヌエスディースリー」を活用しています。