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CXの向上には顧客に接する従業員が使う業務システムの体験価値向上が不可欠

書籍『エクスペリエンス指向のシステム開発』を日鉄ソリューションズが書いた理由

2024年7月24日

現場の生の声をシステム改善施策に反映

──エクスペリエンス指向によるシステム開発は、従来と比べ何が変わりますか。

惠島 :エクスペリエンス指向によるシステム開発が従来の開発と最も異なるのは課題の特定方法です。従来のプロセス指向では一般に、既存のビジネスプロセスを基に、そのプロセスに潜む無駄や手続き上の問題を解消するアプローチが採られ、その視点からシステムの“あるべき姿”が決められます。システム化の前に「この手順で問題はないですか?」と確認はされますが、無駄のないシステムとして提示されるため現場は「はい」か「いいえ」でしか答えられないのが実状でしょう。

 これに対してエクスペリエンス指向では、従業員の働き方の実態把握から入ります。システムの利用者である業務部門へのヒアリングに留まることなく、現状を調査します。例えば、その働き方の中で、従業員が他の従業員との連携などで動きにくい箇所、また気持ちよく仕事ができていない箇所を探りつつ、それらを総合的に勘案して従業員体験上の課題を特定していくのです。

 こうした手順を取ることで、改善策に現場の“生の声”を反映できるようになります。現場の声を収集・反映する過程で、システムに関わるあらゆる立場の人たちが納得感をもって課題意識を共有できれば、開発作業の円滑化にも寄与します。

斉藤 :システム開発に限らず、現場の声の収集には難しい面があります。すべての人が質問に正直に答えるとは限りませんし、各種の“慣れ”から不満に気づいていないことも多々あります。そこでヒアリングには、デザイン思考やエスノグラフィー(行動観察調査)といった手法を活用し現場の声に迫る必要があります。そうした実践を通じて得られたノウハウは、当社が開催する研修用ワークショップで広く公開しています。

惠島 :こうして把握したシステム周りの課題感を基に、どう解決すべきかを考え提案します。提案が了承されれば、開発に着手すると同時に、システムのROI(投資対効果)を評価するための指標も策定します。

増えるステークホルダーの適切なマネジメントも必要に

──エクスペリエンス指向に対する利用企業の反応はどうですか。

斉藤 :これまでにない考え方のため当初は、理解していただくだけで一苦労でした。それでも“ともかく実践を”を最優先に、システム課題を現場視点で改善すると顧客企業に訴え、業務部門のみなさんを巻き込みながら活動を広げてきました。

秋葉 尊(以下、秋葉) :NSSOL 産業ソリューション事業本部 アドバンストエンジニアリング部 部長の秋葉 尊です。苦労はしてきましたが、エクスペリエンス指向は「現場の問題解決に有効だ」との評価が着実に広がってきています。今では、エクスペリエンス指向の“ファン”と呼べる企業も少なくありません。

写真3:NSSOL 産業ソリューション事業本部 アドバンストエンジニアリング部 部長の秋葉 尊 氏

 その背景には、エクスペリエンス指向を土台とする進め方は業務部門の協力を得やすいということがあります。従来の業務システムに対して現場は、「誰かが作ったものを使わされている」と感じてることもありました。それが、エクスペリエンス指向なら現場の声が直接反映されるため、自分たちが育てた“おらがシステム”だと捉えられやすいのです。本業で多忙な現場のみなさんですが、システム開発を通じた共創活動にも積極的に参加していただいています。

斉藤 :エクスペリエンス指向、課題解決に向けたシステムや働き方をどう見直すかは、業務部門といわゆる共創によって考え出していきます。その点では、プロセス指向による開発よりコンサルティング色が強いかもしれません。

──エクスペリエンス指向のメリットを聞き、取り組んでみようと考える企業も少なくないはずです。具体的に、どう進めればよいでしょうか。

惠島 :何より大事なのは「絶対にEXを向上させる」との気概を持つことです。技術的な課題は当社のようなシステムインテグレーターに依頼すれば対応できます。ただ、より大きな成果を上げるためには、従業員の気持ちを理解し、事実に基づいて現状を把握し、どう見直すべきかに知恵を絞ることへ注力していかなければなりません。それにはやはり、アナログな話ですが気概が何より大切なのです。

秋葉 :エクスペリエンス指向ではステークホルダーも多くなるため、そのマネジメントの準備もポイントになります。当社が支援してきた例でいえば、プロジェクトへの理解を得るために、構想が軟らかい段階から経営層に議論への参加も依頼しています。一つの現場だけで解決できない課題があれば、協力を得られるであろう別の現場の担当者にも参加をお願いします。さらに、どう報告すれば会社に納得してもらえるかといったアドバイスなどもしています。いわゆる、前に進めるためにやらなければならないことがあれば、あらゆることを実施している形です。

増田 裕也(以下、増田) :NSSOL 技術本部 システム研究開発センターの増田 裕也です。アーキテクチャ&プロセスデザイン研究部の主務研究員を務めています。先に秋葉が話したように、現場の声の反映が実感できればできるほど、業務部門の主体性が強まり、活発に議論して開発に取り組めるようになります。この好循環がエクスペリエンス指向の“ファン”を増やすことにつながるのでしょうね。

写真4:NSSOL 技術本部 システム研究開発センター アーキテクチャ&プロセスデザイン研究部 主務研究員の増田 裕也 氏

『エクスペリエンス指向のシステム開発 従業員体験が顧客体験を高める』

著者:NSSOLアカデミー・サービスデザインワーキンググループ

サイズ:A5判

ページ数:176ページ

価格:1980円(本体 1800円+税10%)

ISBN:9784295019053

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