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ブリヂストン、デジタル変革の推進に向けデータサイエンティストを4段階で社内育成

奥野 大児(ライター/ブロガー)
2019年6月25日

 すでに効果も出始めている。一例として「リトレッド」のサービスを岩口氏は挙げる。リトレッドとは、すり減ったタイヤの路面と接するゴム(トレッド)を削り取り、新しいトレッドを貼り付ける再生方法だ。ところが実際にはリトレッドが可能なタイヤと不可能なタイヤがあることが分かってきた。

 そこで新品のタイヤを製造する工場とリトレッド用工場のデータを突き合わせ仮説と検証を繰り返すことでリトレッドができないタイヤの原因が分かったという(図2)。岩口氏は「分析のレベルとしては簡単だったが、現場の知見を可視化し仮説を立てデータ分析したことが、ビジネスの価値を高めることにつながった」と振り返る。

図2:リトレッドでの負荷要因分析の例

 振る舞い・行動と並ぶビジネスプロセスでは、新たなバリューチェーンの構築を目指す。そのための検討ポイントとして岩口氏は、「何がソリューションの起点か、ビジネスへどう実装するか、成果としてホームランを狙うのか小さな結果をコツコツと出していくのか」の3つを挙げた。

 なかでもビジネスへの実装では「顧客のビジネスの業務プロセスに入り込むためのコンサルティング能力が必要だと感じている。分析だけできれば良いのではなく、データモデルをシステムに連携させるなどSE(システムエンジニア)的な能力を鍛えなければならない」と岩口氏は語る。

海外企業が「無理」と言うデータサイエンティストを社内育成する

 シックスバブルの最下段でブリヂストンが最も重要視するのが人材だ。「データドリブンなアクションが取れるようになるには、自社でデータサイエンティストを育成しなければならない」(同)と考えるからだ。「海外では『データサイエンティストは学術的な専門知識が必要で社内では育成できない』とする企業が多いようだが、ブリヂストンとしては社内で育成していきたい」と力を込める。

 ブリヂストンはデータサイエンティストの条件として、(1)ビジネス世界の課題をデータ分析の問題に翻訳できり、(2)分析ができる、(3)分析結果をビジネス世界に翻訳できる、の3つの役割を挙げる。

 そのうえで自社のデータサイエンティストを4段階で育成する計画だ。最上位の「シニア・フルデータサイエンティスト」から「アソシエートデータサイエンティスト」「アシスタントデータサイエンティスト」「シチズンデータユーザー」である。「データサイエンティスト協会のスキルチェックリストを参考にしている」(岩口氏)。

 シニア・フルデータサイエンティストは研究機関と共同開発ができるレベルで、データサイエンティストチームを牽引するリーダーだ。アソシエートはデータを基に課題を解決できるレベル、アシスタントはデータドリブンな考察や企画ができるレベル、そしてシチズンデータユーザーはデータサイエンティストが作成したモデルに沿って行動が取れるレベルである(図3)。

図3:ブリヂストンはデータサイエンティストを4段階に分けて育成する

 現在は、アソシエートとアシスタントに、さまざまな研修を実施している。岩口氏は「SAS Instituteが提供するトレーニングプログラムを活用しているが、SASシステムの使い方だけではなく、業務の中でデータ分析を活用したテーマを発表・評価するプロセスを設けてレベルアップを図っている」と話す。

 シックスバブルの残り、組織とITに関して岩口氏は、「妄想の部分が多分にある」と前置きしたうえで「タイヤのビジネスに関わる、さまざまな企業やデータサイエンティストが連携する『AI DevOpsプラットフォーム』を構築したい」とした。

戦略の実現に向けた決断が社内育成を後押し

 最後に岩口氏は、シックスバブルのフレームワークについて、「戦略という軸があったことがとても良かった」と語る。人材育成においても「まず始めてみて成功事例を積み重ねながら成果を出しつつある。資料は格好良くまとめたが、実際は格好良くは進んでおらず、まだまだ完成形とは思っていない。今後もアジャイルの形式で、検証やテストを繰り返しながら着実に前に進みたい」と力を込める。

 データドリブンと言えば、IoTやAIの仕組みや、データ分析ツールの使い方に目が行きがちだ。そうした中でブリヂストンは、海外企業が「無理」とするデータサイエンティストの社内育成に真っ正面から取り組んでいる。それは「戦略の実現にはデータドリブンなカルチャーが不可欠だ」との決断があるからだろう。同社の取り組みの推移を注視したい。