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ディノス・セシール、デジタル時代にアナログメディアを重視した顧客接点戦略で差別化

石田 仁志(フリーライター)
2020年1月31日

ECサイト訪問は「欲しい」と意思が形成された後

 たとえばECサイトでの商品購入では、サイトの商品を順に見て、欲しいものを見つけたから買うというわけではない。欲しいものは決まっていて「すぐに欲しい」からサイトにアクセスして購入する。価格やポイントを考慮するのなら複数サイトを比較し条件が良いところで購入する。

 つまりECサイトを訪れるのは、「欲しいという意思が形成された後」(石川氏)だ。結果、「ECサイトの戦いは、買う物が決まっている顧客をどう奪い合うかという“直前の戦い”になっている。結果としてECマーケットは、ビジネス構造上不可能なサービスレベルまで到達しているのが現状だ」と石川氏は強調する。

 ここにディノス・セシールが紙などのアナログメディアにこだわる理由がある。ファネルの上層の気付きや発見、欲しくなる体験を創り出せるのは「非デジタルで現実世界に存在するカタログやテレビだ」(石川氏)と考えるからだ。

 eMarketerのデータによると、Amazonが全米小売市場に占める割合は2017年時点は4%である。石川氏は、「この意味をEC事業者は重く捉えなければならない。Amazonですら95%を取り逃しているなかで、我々のような小売ベンダーがECを主軸に、どこまで戦えるのか考えるべきだ」と説く。

 そのAmazonは、無人店舗の「Amazon Go」でリアルへの進出を開始している。中国のタオバオも、生鮮食料品の無人スーパーを運営している。ネットで活用したテクノロジーとリアルを組み合わせることで、リアルの世界でも新しい顧客体験を作ってシェアを広げようとしている。

 「ECですべては完結しない。ECサイトは1つの接点でしかないと割り切った瞬間に見える世界がある。当社は、元々持っているカタログというアナログの価値をテクノロジーによって顧客価値を生むようなところに持っていけないかという発想で取り組んでいる」と石川氏は力を込める。

継続的な購入をうながすリテンションに紙を重点的に使用

 ディノス・セシールのEC化率は約60%。日本の平均は5%強である。紙のカタログによりECサイトの手前で勝負し、そこから同社ECサイトで購入する流れができていることがうかがえる。さらにテレビの場合は「上手なコンテンツを作って流すと10分間で億単位の売り上げが出る。リアルなチャネルを抑えていることが強みになっている」(石川氏)わけだ。

 当然、Webとリアル(紙など)は適宜使い分けている。新規顧客を獲得する場合は紙よりもWeb、継続的な購入をうながすリテンション活動では紙を重点的に使う。それぞれに次のような特色があるためである。

 「ECは検索窓に商品名などを入力してもらった後の刈り取りは得意だが、ニーズが顕在化する手前の潜在ニーズを掘り起こすのは苦手だ。カタログやテレビは、そこが得意である。ただし、カタログから欲しいと思っている商品を探し出すのは難しい」(石川氏)

 石川氏からみれば、「Webとカタログ/テレビは姿勢が異なるため、対立構造でなく相互に補完する関係にある。どちらもカスタマジャーニーに含まれる構成要素」である。顧客に対しても、Webから入った顧客にも紙を送り、紙でコンバージョンできない場合はWebで細かなリテンションをかける。「いずれかの方法で顧客が商品を購入するタイミングの近くに入れれば良い」(同)という発想だ。そのために石川氏は8つ部署を兼務し、社内組織や予算を含めて調整しているという。

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