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ワコール、3DボディスキャナーとAI接客で顧客に“深く、広く、長く寄り添う”オムニチャネル戦略を推進

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2020年1月30日

女性用下着大手のワコールが、オムニチャネル戦略に取り組んでいる。国内に約2700あるリアル店舗と3300人の販売員を最大の強みに「お客様に深く、広く、長く寄り添う」ことを目指す。その一環として2019年、3DボディスキャナーとAI(人工知能)による接客の仕組みを備えた店舗を東京と関西に開設した。同社のオムニチャネル戦略について同社執行役員 総合企画室 オムニチャネル戦略推進担当 副室長の下山 廣 氏が「DIGITAL X Day 2019」(主催:弊誌)に登壇し、解説した。

 ワコールは、1949年の創立からの70年間、実店舗中心で女性用下着を販売してきた。振り返れば、1960年代の高度成長期に百貨店と共に売上を伸ばし、1980年代には量販店の拡大とともに成長してきた。同社の執行役員 総合企画室 オムニチャネル戦略推進担当 副室長である下山 廣 氏は、「百貨店と量販店との2つの成長期が当社の成功体験にもなっていた」と説明する(写真1)。

写真1:ワコール 執行役員 総合企画室 オムニチャネル戦略推進担当室 副室長長の下山 廣 氏

1997年を転機に下着の売り上げが低下

 ただ直近は成長度合いが鈍化し「直営事業や海外事業が会社の成長を支えている」(下山氏)。転機は1997年に訪れた。日本百貨店協会によれば、同年から2017年まで、百貨店の売上高は3兆2000億円も減少した。量販店での衣料品の売上高も1997年から2014年の間に8500億円落ちた。

 その背景には日本人の価値観の大きな変化がある。たとえば総務省の調査によると、1997年に通信費と衣料品への支出が逆転している。所得者層の構造も大きく変化していった。

 以後、通信費の上昇に伴うかのように衣料品への支出は抑えられている。当然、下着への支出も下がっていった」(下山氏)。こうした流れがワコールにも大きく影響しているのは間違いない。

 ただ下山氏は、「ネットビジネスも展開しているが、先の成功体験に縛られ、この20年は新しいことへの対応が遅れた。顧客との関係がきちんと築けていれば、ここまでの影響はなかったはず。チャネルという販路を中心に物事をとらえ過ぎていた」と振り返る。

 「このままではいけない」と、4年前から着手してきたのが「ワコール版オムニチャネル戦略」だ。顧客と「より深く、広く、長く」つながれるよう、顧客がワコールと過ごす時間を増やせる仕組みを構築するのが目標だ。そのために、デジタル化を推進する。

リアル店舗が顧客に与えるストレスを解消する

 現在、ワコールの全体の売上高に占めるEC(電子商取引)率は約13%だ。大手アパレルと比較しても決して小さい数字ではない。しかしワコールは、「顧客接点や、インナーウェアの価値・文化のあり方を考えた時、ECだけに注力するのは得策ではないと考えた」(下山氏)という。

 その理由の1つに、多数の実店舗での顧客接点と、それら店頭に立つ多くの販売員の存在がある。「ECが便利でストレスを感じさせないチャネルであるのに対し、当社が創立以来70年間実施してきたリアルな店舗が、いつの間にか不便になり、そこになんらかのストレスを感じる顧客が増えてきた。リアル店舗を革新し、顧客1人ひとりとチャネルを超えて接点を持つという戦略を採用した」と下山氏は語る。

 たとえば店頭では、販売員が顧客に話しかけ、試着を勧め、採寸をする。「販売員は採寸や試着のための訓練を受けており“神の手”と呼ばれていたほどだ。だが顧客の声を聞くと、販売員の接客を必要としない人もいた」(下山氏)。最近は「若い世代を中心に試着をしない人も増えている」(同)という。これまで接客スタイルが逆にストレスにもなるわけだ。

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