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いろりの宿 芦名、老舗の経営理念を新たな顧客層にAIコンシェルジュと共に伝える

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2020年2月4日

福島県会津若松市にある老舗旅館、いろりの宿 芦名は、新しい顧客層や外国人観光客などを受け入れるために、AI(人工知能)を“コンシェルジュ”として雇っている。旅館の理念を守るのが、採用の理由だという。芦名 マーケティング事業部の大角 隆雄 氏が「DIGITAL X Day 2019」(主催:弊誌)に登壇し、旅館を取り巻く現状やデジタル技術を使った接客について解説した。

 いろりの宿 芦名は、福島県会津若松市の奥座敷、東山温泉にある老舗旅館である。築120年を超える古民家風の館内は全7室と小規模だが、会津野菜やジビエなど地元の食材をいろりで提供するなど、昭和レトロな雰囲気をウリにしている。これまで、多くのリピーターを顧客に持っていた。

 芦名の経営理念をマーケティング事業部の大角 隆雄 氏は、「『宿の姿、人にあり』だ。スタッフは常に、自らが楽しみながら仕事をすることを心がけ、お客さま一人ひとりとの出会いに感謝している。お客さまに自然と笑顔があふれるような宿を作りたい」と説明する(写真1)。

写真1:芦名 マーケティング事業部の大角 隆雄 氏

 芦名のスタッフは、女将と若女将、3人の中居、2人の料理人、それと経理と清掃、営業が各1人の総勢10人。顧客に直接、対峙するスタッフは6人で、「1人でも欠けるとサービスの安定供給は難しい」(大角氏)。なかでも、いろりを使う夕食時などは、焼き加減の確認や飲み物の提供などマルチタスクが求められる。そのため対応できる顧客数は「1人で2組が限度」(同)と言う。

 それでも少数精鋭でこなせてきたのは、顧客の7割以上がリピート層で占められていたことが大きい。「求められる期待値がわかっており、お客さま1人ひとりに合わせたサービスが提供できた」(大角氏)からだ。

新たな顧客層の増加で“おもてなし”の低下を懸念

 しかし、リピーターと彼らの紹介、あるいは団体だけに集客を頼るのにも限界が出てきた。さらに国内旅行客が減少している昨今、外国人観光客の集客も重要になっている。芦名でも、インターネットエージェントや、オンラインのトラベルエージェントを活用するようになった。結果、「これまでとは異なる客層からの予約が入るようになった」と大角氏は話す。

 実際、福島県の外国人宿泊者数は2018年、延べ数で前年同期比186.4%伸びた約17万人泊で、全国2位になっている(楽天トラベル調べ)。大角氏は「福島県の宿泊者数は年約1085万人泊のため、外国人宿泊比率は0.2%程度だが、着実に増えている。今のうちに外国人旅行客の受け入れ対応力を整え、将来の集客に備えたい」と今後の戦略を練る。

 顧客層の多様化は経営には貢献するものの、別の懸念も出てきた。新たな顧客ニーズに合わせたサービスの提供機会が増え、「スタッフの業務量が増えてきた。その結果、従来同様の“おもてなし”を感じていただけていないのではないかという思いが頭をもたげるようになった」と大角氏は打ち明ける。

 少数精鋭できた芦名では「少数のスタッフが提供できるサービスの総量は変えられないにもかかわらず、客層の多様化で求められるサービスの種類が増えれば、必然的に顧客が感じられる“おもてなし”の量が減ってしまう」(大角氏)からだ。結果、「お客さまの顔色をうかがうようなサービスが増え、従業員の精神的な負担が増加していった」(同)。

 おもてなしの量が減少すれば当然、芦名というブランドの変化につながってしまう。そうなれば「宿の理念まで変わってしまう可能性がある。理念が変われば、さらに顧客層が変化し、ブランディングが難航する悪循環につながっていく懸念があった」と大角氏は吐露する。

「DIGITAL X Day 2019」の講演概要をダウンロードいただけます