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いろりの宿 芦名、老舗の経営理念を新たな顧客層にAIコンシェルジュと共に伝える
チャットボットと音声AIを“コンシェルジュ”として雇用
客層が多様化し、おもてなしの維持できないからといって、単純に業務量を増やせば良いわけではない。人員補充も予算的に厳しい面がある。こうした課題を解決するために芦名がたどり着いたのが、AI(人工知能)チャットボットと音声AIという2種類のAIの導入だ。
AIチャットボットには、リクルートが開発する「トリップAIコンシェルジュ」を採用した。自社ホームページに組み込み顧客の質問に答える。利用状況からは「問い合わせで一番多いのは、駐車場の照会だ。その他は、観光情報や料理に関する質問が多い」(大隅氏)ことが分かる。顧客の満足度も84%と概ね高い。
ただ大隅氏は「顧客の期待値の幅が広すぎるため、残念ながらすべての課題には対応できていない」と見ている。「私たちも開発企業も予期しない質問が届くことがあり、チャットボットの限界を感じることもある。しかし、この予期しなかった質問が非常に重要だ。今後の課題解決につながることは確かと感じている」と大隅氏は語る。
一方の音声AIには、スマートスピーカーの「Amazon Echo」などに使われている「Amazon Alexa」(米Amazon.com製)を採用した。「アレクサ、芦名を開いて」と問いかけると、チェックインの手順や、料理や温泉などの施設、会津の観光地、交通機関などが案内される。質問応対は60項目を用意し、外国語にも対応している(写真2)。
ただAlexaは、外国人宿泊者らが自ら操作するのではなく、芦名のスタッフが話しかけ、英語などで回答を返すという手順を採っている。芦名の理念から考えれば、音声AIによってセルフサービス化を進めるのではなく、外国語対応なので、おもてなしが不十分になるのを防ぐのが目的だからだ。大隅氏は「外国人のチェックインでは、重要事項の説明など抜け漏れがなくなるなど、その効果を実感している」と話す。
Alexaの動作はクラウド使い自身で開発・運用
芦名が、音声AIにAmazon Alexaを採用した理由は、大きく2つある。1つは、Alexa用のスキル、すなわちAlexaがどう反応するかを指定するプログラムを開発・実行するためのクラウドサービスの「NOID(ノイド)」(アイリッジ製)を見つけたこと。NOIDを使って芦名は、自身で質問などを追加している。
大隅氏は、「AIを使った仕組みを導入しようとすれば、何百万円と開発費を提示されることもある。NOIDの利用料は月額1万円と安価だし、プログラミング知識がなくても、質問項目と回答を記述すればAlexaを動作させられる。導入コストやランニングコストをかけられない芦名のような旅館でも、AIコンシェルジュを採用できる」と、NOIDを評価する。
Alexa採用の、もう1つの理由は、Alexaが車や家電など、さまざまなデバイスに搭載され始めていること。「将来は、スマートフォンやPCで旅館や旅先を検索するのではなく、どこにいてもAlexaに話しかけて予約ができる世界が訪れるかもしれない。そんな将来性を考慮し、Alexa対応の準備を始めたかった」(大隅氏)わけだ。
Alexaなどの音声AIについて大隅氏は、「経営理念を維持しながら、持続的な経営を実現したい施設に向いている」と分析する。「ビジネスホテルなど稼働率や効率を優先する施設が成長していくなか、旅館業は、おもてなしのために人が動くという非効率な事業だ。だがAIなどの先進技術を取り入れれば、芦名のように歴史や理念を守り続ける経営/サービスの維持が可能になる」(大隅氏)と考えるからだ。
大隅氏は、「先端技術を使って人の心に訴えるサービスを提供し、これからも自然と笑顔があふれる旅の思い出作りを手伝っていきたい」と将来を展望する。理念を重視する芦名が採用したAIコンシェルジュが今後、どのような新サービスを提供してくれるのかに注目したい。
企業/組織名 | いろりの宿 芦名 |
業種 | サービス(宿泊) |
地域 | 福島県会津若松市 |
課題 | ネット予約などを採用した結果、客層が広がったものの、限られたスタッフ数で期待通りの“おもてなし”を提供し続けられるか |
解決の仕組み | AIチャットボットと音声AIを“コンシェルジュ”として採用し、顧客対応に利用する |
推進母体/体制 | いろりの宿 芦名 |
活用しているデータ | 顧客からのチャットボットへの入力データや、問い合わせの音声データ |
採用している製品/サービス/技術 | チャットボット「トリップAIコンシェルジュ」(リクルート製)、音声AI「Amazon Alexa」(米Amazon.com製)、Alexa用スキルの開発・運用環境「NOID(ノイド)」(アイリッジ製) |
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