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CEOが望むDXの目的は「コスト削減」と「売り上げ向上」しかない
タッパーウェアブランズ・ジャパン 代表取締役社長 石井 恵三 氏
コスト削減に向けては自動化・無人化を進め人材を有効活用する
これら2つの目的を達成するためには、どのように進めれば良いのだろうか。オペレーションの最適化によるコスト削減に向けては、「人がやっていた作業をシステムによって自動化・無人化する」(石井氏)。これにより外部委託費を減らし、ヒューマンエラーを減らす。するとコンタクトセンターへの電話の数も抑えられる。結果として「社内人材の有効活用が可能になる」(同)
石井氏は、「コスト削減は、売り上げ向上よりも短期に成果を得られる。私が企業にコンサルティングを提供していた際は、まずは経費削減にデジタルを使って実績を上げてから大きなプロジェクトを始めるよう勧めてきた」と話す。
それほど売り上げ向上は、よりハードルが高い。「マクロとミクロのデータを組み合わせて将来を予測しなければならないためだ」(石井氏)。データを使った予測により、生産体制の調整やマーケティング、価格の最適化などに取り組むことが、売り上げ向上を達成する方法になる。
売り上げ向上を含め財務指標を改善させるDXのためのアプローチとしては、「デジタル化によって、現状の売り上げに対してコストをいくら削減できているかを把握し、売り上げが伸び額と、それに対するコストの削減額とは分けて考えることがポイントになる」と石井氏は語る。
その理由を石井氏は、「将来、売り上げが増えるという保証がないからだ」と説明する。売り上げ向上だけに目を奪われず、「どれだけコストダウンが図れるかを基準に投資額を判断すべきだ」(同)という。
具体的には、「現状のコストだけを見るのなら、その3年分の削減額を、成長分も見越すなら現状との合計で2年分の削減額を、DXへの投資の上限にすべきだ」石井氏は話す。「この範囲に開発規模を抑えながら、実際のコスト削減額を使ってROI(投資対効果)を評価することを勧める」(同)とする。
石井氏によれば、上記の金額以内に第1次の投資を抑えているプロジェクトは成功する可能性が高い。「逆に、この計算をしておかないと、開発後に1円も稼げないまま、システムの減価償却に年間何千万円もの費用がかかる“モンスター”を作る恐れがある」(同)と、その重要性を強調する
顧客の行動データの活用が企業の明暗を分ける
売り上げ拡大に向けたDXにおいて、石井氏が、かつて働いていたAOLとAmazonでは、データに対する考え方が全く異なっていたと明かす。
「AOLでは、詳細な顧客の個人情報を持っていたものの、それは会員のメンバーシップでしかなかった。AOLは、その枠から出られなかった」(石井氏)。これに対しAmazonは、「例えば、20歳の女性と70歳の男性が、同じWebページを閲覧していれば、2人には全く同じ商品をレコメンドするなど、性別や年齢ではなく、行動だけに注目していた」(同)
「両社が現在、どうなったかは、皆さんが知るとおりだ」としたうえで石井氏は、「個人情報は、その人にアクセスするために必要なデータだが、売り上げ向上という目的達成のためには、消費者の行動データが不可欠だ」と強調する(図3)。
その行動データは、どうやって入手できるのか。小売業やEC(電子商取引)サイトの運営者はデータが取りやすい。だが、メーカーが最終消費者のデータを集めることは、なかなか難しい。コカ・コーラ時代の石井氏は「『CokeOn』というスマートフォン用アプリケーションからキャンペーンを実施し自動販売機から消費者の行動データを集めていた」と明かす。
加えて、外部のビッグデータも収集する必要がある。「消費者パネルのデータや、店舗の出店位置などのデータ、気候データなどは入手すべきだ」(石井氏)とする。これらの情報を集約し、AI(人工知能)アルゴリズムを使って将来を予測する。ただし、「ここには、それなりのコストがかかる」(同)