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住友化学、事業の競争力確保に向けた「DX戦略2.0」を1年前倒しで始動

住友化学 デジタル革新部長 金子 正吾 氏

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2022年6月20日

「データ解析の民主化」を進め現場にAI技術を適用

 こうした体制下で、金子氏がグループリーダーを務めるのが、データサイエンスに取り組むためのCoE(Center of Excellence)だ。このCoEを中核に組織横断でのデジタル革新に取り組む。

 「工場、研究開発、営業、マーケティングそれぞれに合わせたデータサイエンスの活用を進めている。取り組みをリードするのはCoEのメンバーであるデータサイエンティストだ。だが目指すのは、研究スタッフや製造スタッフ、営業、マーケティング担当者など現場のメンバーがデータの可視化や解析のスキルを持ち、現場で自律的に課題解決を図る、すなわち“データ解析の民主化”」(金子氏)である。

図4:データサイエンスの中核をなすCoEの位置付け

 例えば、研究開発においては、データ駆動による開発の効率化、高度化を目指し、AI(人工知能)技術を使ったマテリアルズ・インフォマティクス(MI)への取り組みを進めている。「研究者の専門的知見に頼り、実験によって試行錯誤してきた開発を、データ駆動型に変える」(金子氏)のが目標だ。

 「MIは実験による試行回数を減らし、効率化に寄与するだけでなく、人知だけでは辿り着けない新しい材料の発見につながる可能性も秘めている」と金子氏は期待を寄せる。

 すでにMIにより、耐熱性ポリマーの開発で成果を挙げた。「13種類の候補モノマー種と組成の組み合わせを考えた場合、その数は100万通り以上ある。少ない実験回数で所望特性を満たす組成を見出すためにAIを活用した。最初は精度の低いところから機械学習を回し、4サイクル目で所望する特性を満たす化合物を発見できた」(金子氏)という。

図5:住友化学が目指すデータ駆動型の研究開発の姿

 生産現場でもAI技術を生かしている。例えば、設備やプロセスのトラブルの予兆を早期に検知するためにAI技術を導入している。「トラブルを予知できれば、突発対応でなく計画的に対応できるようになり、現場のメンテナンス効率が高まる」(金子氏)

 不良品の発見など製品検査には画像処理とAI技術を組み合わせている。「めったに出ない不良品を学習させることが難しい。そこで畳み込みニューラルネットワークの技術を用いて欠陥の特徴を抽出し、機械的に判別できるようにしている」(金子氏)という。

データ解析の民主化に向けた人材育成を強化

 さらなるDXの推進とデータ解析の民主化を進めるには、「人材育成が重要だ」と金子氏は指摘する。2021年度にはデータサイエンティストを20人育成したほか、生産現場に100人、研究開発に50人のデータエンジニアを育成した。そのために、データリテラシーを高め、統計解析や機械学習などのデータ解析の現場適用を可能にする研修プログラムを開発した。

 データ分析力の浸透と並行して、事業部門の社員に対しても、ビジネスドメインとDXやIT双方の知識・スキルを掛け合わせて保有するハイブリット人材になるための教育を実施している。

 金子氏は人材育成について、「当社はこれまで、化石資源を原料に生産プロセスや加工技術を磨き、様々な製品を開発し提供してきた。今後は、資源循環に取り組むだけでなく、データという“新時代のオイル”を使った新しい価値を提供する企業になる。データ解析は社内の一部の人間が取り組んできたが、これを全社に拡大していかなければならない」と力を込める。