• UseCase
  • 製造

住友化学、事業の競争力確保に向けた「DX戦略2.0」を1年前倒しで始動

住友化学 デジタル革新部長 金子 正吾 氏

指田 昌夫(フリーランス ライター)
2022年6月20日

1913年に創業し100年超の歴史を持つ住友化学にとって、いかにサステナブル(持続可能)な企業に変革していくかが重要な経営課題になっている。同社デジタル革新部長の金子 正吾 氏が都内で2022年2月9~10日に開催された「Manufacturing Japan Summit 2022」(主催:マーカスエバンズジャパン)に登壇し、住友化学におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みについて講演した。

 住友化学の創業は、住友グループ発展の礎になった別子銅山で銅の製錬時に出る亜硫酸ガスを原料とした肥料の製造にある。同社デジタル革新部長の金子 正吾 氏は、「当社は創業時から環境問題の解決と、食料増産のための肥料の開発に取り組んできた。現在でいうSDGs(持続可能な開発目標)の考え方をDNAに持つ会社だ」と表現する。

写真:住友化学 デジタル革新部長の金子 正吾 氏

 総合化学メーカーとなった住友化学は現在、石油化学、エネルギー・機能材料、情報電子化学、健康・農業、医薬品の5つの事業分野を手掛けている。国内5カ所に9の研究所と6つの工場を持つ。海外の拠点も79に及び、全社売上高のうち約7割を海外部門が占める。その経営環境を金子氏は、「事業が多岐にわたり、それぞれで競争環境や課題が異なる」と説明する。

デジタル化でサステナブルな企業への変革を図る

 金子氏は住友化学で、プロセスエンジニアとして製造技術やプロセス開発に従事してきた。2016年に転機が訪れた。本社生産技術部で工場生産部門のデジタル化(スマートファクトリー)の企画・推進の担当になった。

 そこからコーポレート部門が全社的にデジタルトランスフォーメーション(DX)を主導することになり、2019年からはデータサイエンスを全社に展開するための「デジタル革新部」のリーダーを、その発足と同時に務めている。

 住友化学が経営課題としてDXに取り組む背景を金子氏は、こう説明する。

 「化学メーカーである当社にとって、いかにサステナブルに変化していくかが経営課題だ。これまでは製品そのものの価値を重視してきたが、今後はサービスや体験の提供が必要になる。社会環境の変化は新しい事業機会を創出する大きなチャンスだが、一方で顧客ニーズは多様化・高度化しており、製品のライフサイクルも非常に短くなっている。これらにどう対応していくかが問われている」

図1:住友化学におけるサステナビリティへの取り組み

 DXへの取り組みは、「トップダウンとボトムアップの両面から推進している」(金子氏)。トップダウンでは、経営としてDXに取り組む重要性を社員と社外のステークホルダーに発信する。「社長や副社長が『DXは重要な経営課題である』との対外的なメッセージを発信しながら、グループを含めた社員には戦略とビジョンを直接語り掛けることで目指す姿を共有する」(金子氏)

 ボトムアップのために「DX活動推進賞」を2019年から実施している。現場の自発的なアイデアをベースにした取り組みを表彰する制度だ。金子 氏は、「成果だけを判断基準にするのではなく、挑戦するマインドや失敗を恐れず独創的にチャレンジする姿勢も加味し表彰する。従来の社内表彰とはコンセプトが異なる」と説明する。

 「DXリポジトリ」と銘打った社内DXイベントも始めている。DXリポジトリは、各職場が取り組んだDXに関する知見を持ち寄り「成功例も失敗例も赤裸々に語り合って共有する場」(金子氏)である。コロナ禍で初回の2020年こそ完全オンラインでの開催になったが、「気づきも多く、有意義なイベントだ」と金子氏は評価する。