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キリンビール、“生への畏敬”を大切にデジタル化で新製品・新事業を支える

キリンビール 常務執行役員 横山 昌人 氏

奥平 等(ITジャーナリスト/コンセプト・プランナー)
2022年6月22日

製造現場のイノベーションが成長を支える

 当然ながら、これら新製品の開発やビジネスモデルの変革は「製造現場のイノベーションなくして成り立たない」(横山氏)。具体的には、製造現場では不可欠な「QCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)」に立脚したデジタル技術の導入を推進し、現場の省力化とジャストインタイムの製造体制の確立を目指している。

図3:QCDに向けたデジタル技術の活用例

 Qualityでは、例えばネットワークカメラを活用している。製造現場各所の様子を画像で記録し、品質管理や移動負荷の軽減、製造現場の省力化を実現する。AI画像解析などと組み合わせた異常検知の自動化などの実証実験にも取り組んでいる。

 Costの観点では、設備管理へのセンサーデータを活用する。故障が発生する前に異常を検知することで、「故障の削減はもとより、部品の交換周期の適正化、点検業務の負荷軽減を達成できたほか、工程遅れなどへの迅速な対応にも大きく貢献している」(横山氏)という。

 Deliveryでは、生産・物流における総コストのシミュレーションに取り組んだ。製造能力や倉庫の保管能力、販売予測などの条件を入力し、工場ごとの製造・輸送・在庫数量など生産・物流にかかるコストを算出。複数シナリオによるシミュレーションにより生産・物流トータルでの最適化を図っている。

 これらの取り組みは、新たに整備したIoTプラットフォームを介して有機的に連携している。「データの可視化を第一義にした仕組みだ。製造現場の稼働率や設備のトラブルデータなど一連の工程をリアルタイムにダッシュボードに表示する」(横山氏)

図4:データの可視化を支えるキリンビールのIoTプラットフォーム

 IoTプラットフォームは、データ解析基盤としての機能も持ち「煩雑だったデータ解析業務の負荷軽減にも寄与している」(同)とする。現状は過去データの分析・解析が中心だが、今後は、需要予測などを含めた“未来志向”の分析・解析に広げる。

 AI/IoTの活用の中では、様々な暗黙知の形式知化にも着手している。横山氏は、「マイスターや熟練工たちの知見のデータ化を図っている。“生への畏敬”を尊ぶためにも、常に最高の状態で商品を提供していきたいからだ」と説明する。

 現在、グループ全体の成長戦略は、「食」から「医」を内包したヘルスサイエンス領域でのイノベーション創出に向かっている。その象徴の1つが、プラズマ乳酸菌を含むサプリメント「iMUSE(イミューズ)」だ。プラズマ乳酸菌の働きが免疫機能維持をサポートする日本初の機能性表示食品である。

 同分野における新製品の創出に向けても、キリンビールが製造現場で取り組んできた成果は大きな意味を持ち、グループ全体の競争力強化に寄与することだろう。