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野村ホールディングス、証券業の顧客対応の“あるべき姿”をDXで模索

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2023年7月10日

4種類のスマホ用アプリを開発・提供

 第1弾として4種のスマートフォン用アプリケーションを開発した。コンセプトは「デジタルファイナンシャルアドバイザー」。実店舗を訪れたりコンタクトセンターに問い合わせたりすることに対し、「敷居の高さや、時間や手間の負担を感じる層を対象に、24時間365日、いつでも好きな時に、投資に必要な答えが得られるようにした」(池田氏)。「顧客のさらなるニーズを引き出し、顧客の資産運用を進化させる」(同)のが狙いだ。

 開発したのは、(1)「FINTOS!」、(2)「OneStock」、(3)「NOMURA」、(4)「Follow UP」の4つ。投資の流れに沿っている。

 FINTOS!は、機関投資家向けに野村證券のリサーチ部門が提供している「野村リサーチレポート」を、個人投資家でもスマホ上で手軽に見られるようにした情報提供アプリで、投資するかどうかの意思決定を支援する。

 OneStockは資産管理用のアプリで、保有資産を一元管理できるほか、簡単な質問に答えれば資産寿命を算出できるようにした。NOMURAも資産管理用アプリだが、野村證券に口座を持つ顧客専用で、野村証券の基幹システムである「STAR」と連携し、保有資産の評価額の推移や評価損益の合計額などをリアルタイムに確認できるほか、FINTOS!と連携した関連記事などが読める。

 Follow UPは、資産情報のためのメッセージアプリで、顧客が登録した保有資産について、株価の変動や投信の分配金情報などを配信する。一定期間の資産変動を振り返ることもできる。

 これらのスマホアプリのうちOneStockとFollow UPは、AWS(Amazon Web Services)のクラウドサービス上で開発・運用する(図2)。野村グループでは2019年からAWSをIaaS(Infrastructure as a Service)環境として利用していたが、両アプリではデータプラットフォームとし、「データドリブンかつアジャイルなアプリケーション開発が可能になっている」(池田氏)という。

図2:スマホアプリの「OneStock」と「Follow UP」は、AWS(Amazon Web Services)のクラウドサービス上で開発・運用している

デジタル資産を扱うビジネス開発を加速

 スマホアプリ以外にデジタル・カンパニーが力を入れるのが、デジタル資産を扱うビジネスの開発だ(図3)。その1つが、トークン・ビジネスの推進だ。具体例には不動産のデジタル証券化がある。推進母体となるBOOSTRAYを設立し、セキュリティ・トークンの発行と流通に特化したブロックチェーン基盤を開発している。

図3:野村グループが取り組むデジタル・アセット(資産)関連ビジネスの概要

 BOOSTRYは、デジタル通貨事業を手掛けるディーカレットDCPなどと共に、セキュリティ・トークン取引におけるデジタル通貨決済の実用化に向けた検討にも取り組んでいる。2022年度には、デジタル通貨の導入に向けて一定の実現可能性を確認。2023年度から、二次流通市場に対応した実装方法を具体化し、実装計画の策定方針を検討する予定である。

 デジタル資産を保管するカストディ事業では、暗号資産交換業のライセンスを持つCrypto Garageに出資したり、ジョイントベンチャーであるKomainu(コマイヌ)を通じた機関投資家を対象にしたデジタル資産の保管サービスを提供したりしている。池田氏は「事業拡大に向けた体制を整備している」と話す。

 ほかにも、コミュニケーションAI(人工知能)やトレーディングAIの導入に向けて、先端技術の開発・活用にも積極的に取り組んでいる。2021年には米SRIインターナショナルと提携。米カリフォルニア州に日本企業向けのイノベーション施設「Nomura-SRI Innovation Center」を開設した。