• UseCase
  • 金融・保険

野村ホールディングス、証券業の顧客対応の“あるべき姿”をDXで模索

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2023年7月10日

野村証券を中核に証券・金融サービスを手掛ける野村ホールディングスは2025年、100周年を迎える。顧客への新たな価値提供を目指し、デジタル・カンパニーを設置し、実店舗とネットサービスを組み合わせたOMO(Online Merges with Offline)の実現に向けたデジタルトランスフォーメーション(DX)に力を入れている。

 「金融サービスのデジタル化により投資への心理的障壁や物理的障壁が下がった。これまで縁遠かった若年層などを含めた顧客が、中長期に投資に関われるような環境作りが急務になっている」−−。野村ホールディングス 執行役員 デジタル・カンパニー長の池田 肇 氏は、野村證券グループにおけるデジタルトランスフォーメーション(DX)に注力する理由を、こう語る(写真1)。池田氏は、営業部門マーケティング担当でもあり、野村證券の常務も務めている。

写真1:野村ホールディングス 執行役員 デジタル・カンパニー長 兼営業部門マーケティング担当の池田 肇 氏

 池田氏が率いるデジタル・カンパニーは2022年4月1日にスタートした新しい組織。グループのデジタル関連リソースを集約し、グループのためのデジタル戦略の策定から各種デジタルツールの開発、さらにはデジタル・アセット・ビジネスやデジタル関連企業とのグローバル連携などにも取り組んでいる。

 その前身は、2019年4月に池田氏の進言で発足した未来創造カンパニーだ。進言の理由を池田氏は、「ネット証券の台頭により特に個人向け市場では、スマートフォンがあれば投資が完結する世界になりつつある。デジタル技術を最大限活用し、顧客が望む最良のサービスを実現するためには、DXを部門横断的にスピーディに進める必要があったためだ」と説明する(図1)。

図1:野村ホールディングスが描く証券DXのイメージ

グループ横断組織でデジタル化を推進

 当然、野村グループでは、未来創造カンパニー発足以前から、デジタル化には取り組んできた。だが、各事業部門の取り組みだったのが実状だ。加えて野村證券はこれまで、実店舗を拠点とした対面での対応を強みにしてきた。結果、デジタル化を検討する際も「対面での対応や、そのための付随業務を支援するための仕組みの検討が優先されがちだった」(池田氏)という。

 対面を前提としたビジネスモデルが強い間は特に、「デジタル化を進めるのが難しかった」と池田氏は振り返る。「例えば、スマホを使えば顧客自身が資産運用を完結できるといった話を挙げると『人員をデジタルに置き換えるのか』など、デジタル活用と人の位置づけについても見解の相違があった」(池田氏)ためだ。部門ごとの取り組みだったため「それぞれが取り組みに自負を持っており、部門横断的な動きは難しいこともあった」(同)

 自身が10年以上の個人営業の経験を持つ池田氏は、「確かにデジタルサービスだけで顧客対応が100%賄えるわけではない」と事業部門の声も理解する。しかし、野村證券の顧客数は約530万人。それに対して営業担当者の数は1万人弱。単純計算では一人の営業担当者が対応する顧客数は530人になる。それだけの顧客に、「投資前、投資時だけでなく、投資後の資産運用を含め、顧客が求める情報を送り続けることは人手だけでは不可能」(同)なのも事実だ。

 こうした従来の課題を乗り越え、野村グループ共通のデジタルサービスの提供に乗り出すために再編されたのがデジタル・カンパニーである。「顧客とのコミュニケーションをデジタル中心に変化させる」(池田氏)ことをミッションに、デジタル・カンパニーの未来共創推進部が新たなデジタルサービスの企画・開発に当たる。