• UseCase
  • 金融・保険

野村ホールディングス、証券業の顧客対応の“あるべき姿”をDXで模索

中村 仁美(ITジャーナリスト)
2023年7月10日

 これらの取り組みがうまく進展している理由として池田氏は、「未来共創推進部にDX推進チームとしての体制を整えられたこと」を挙げる。具体的には、「金融人材だけでなく、デジタルマーケティングやプロダクト開発の経験がある人材を採用している」(同)ことがある。

 なかでもアプリケーション開発に携わる人材には、「金融業のITに詳しいメンバーを採用している」(池田氏)。「デジタル・カンパニーが開発サービスには、金融業ならではのルールにも沿う必要がある。アプリケーションの開発では、金融業界のノウハウが不可欠」(同)だからだ。

 並行して、既存のIT部門のメンバーには、「DXの推進に必要なアジャイル開発への理解を促している」(池田氏)。多様な人材が1つのチームとして機能するようになってきたことで、「IT部門とも信頼関係が築け、開発がスムーズに進むようになってきた」(同)という。

実店舗やコンタクトセンターを含めたOMO戦略を推進

 アジャイル開発を含め金融関連アプリの開発力を高めるデジタル・カンパニーだが、ネット環境の整備だけに特化しているわけではない。「ネット証券会社などはネット環境こそが主戦場だが、当社には実店舗という資産もある。両者にコンタクトセンターを加えた顧客接点を最大限に活用するOMO(Online Merges with Offline)戦略を推進し、手数料という軸で証券会社を選ぶという顧客の価値観を変えることで、ネット専業会社との差別化を図る」と池田氏は意気込みを隠さない(図4)。

図4:実店舗などの既存資産を活かしたOMO戦略を推進する

 ネット時代の実店舗のあり方は、営業部門のRX(リテール・トランスフォーメーション)部隊が検討・推進している。以前は、営業部門との連携が十分とは言えなかったが、今は池田氏が営業部門マーケティング担当を兼務することで、「両者の連携がスムーズになり、顧客ニーズに合わせたデジタル化と実店舗の開発が可能になってきた。人でしか提供できないサービスの強化を図りたい」(池田氏)という。

 また、現行の4種のアプリについても、「主要機能の集約を検討している」と池田氏は明かす。「顧客の利用状況を示すデータから、どのような機能やサービスが受け入れられるのかが分かってきた。これからは総合アプリ化を目指し、アプリの構成を見直し、情報提供から取引、資産管理、フォローアップまでを一括してサポートできるようにする」(同)計画だ。

 主役したアプリは、今期中の達成を目標にする。新たな機能・役割を担う実店舗の姿を含め、野村ホールディングスが証券市場で、どのような新たな価値を提供していくのか注目したい。