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SMBCグループ、AI・データの活用で現場の可視化や新サービス開発を加速

三井住友フィナンシャルグループ/三井住友銀行 データマネジメント部長 江藤 敏宏 氏

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2023年10月5日

グローバルな顧客情報を共通基盤に集約

 一方、経営管理の高度化に向けては、データ活用のためのツールや基盤の整備を図っている。まずはBI(Business Intelligence)ツールとしてSalesforceの「Tableau」を採用した。経営陣から本部、営業店など、さまざまな立場の利用者に向けた情報閲覧のための基盤の位置付けで、行内のデータを収集・分析した結果をダッシュボードで参照できる体制の確立を急ぐ。

 例えば、経営陣には経営判断に関する重要な指標を、本部には各部門の採算管理やKPI(重要業績評価指標)を、営業店には営業活動の実績や近隣マーケット状況などを、それぞれ提供・参照できるようにする。「ダッシュボードのコンテンツは従業員自らが企画・作成している。現状では約50部署、150コンテンツへと拡大中だ」と江藤氏は説明する。

 従業員の積極的な参加を促すために、「社内媒体を使った情報発信により、認知向上を図ってきた」と江藤氏は話す。具体的には、社内のSNSコミュニティでの活用事例の紹介や、従業員自らが出演する動画や社内ポスターの作成などである。

 グローバルな取り組みとして、フロント営業を支援する「Global Business Platform(GBP)」を構築した(図3)。大企業を中心とした法人顧客の案件をグローバルで可視化・共有するのが目的だ。金融業界向けCRM(顧客関係管理)サービスの「Salesforce Financial Services Cloud」をベースに開発し、従来は地域ごとに管理していた顧客データベースを集約し一元化した。

図3:グローバルでのCRM(顧客関係管理)基盤となる「Global Business Platform(GBP)」の概念

 GBPの構築により、「地域別・ビジネスライン別の採算管理が本社側で実施できるなど効率性が高まった」と江藤氏は話す。GBPでは営業担当者がスマートフォンを使ってデータの入力や閲覧ができるため、「営業活動の生産性も高まっている」(同)とする。

データ活用人材の社内育成に向けた新卒採用も強化

 こうしたデータ活用を支える人材をSMBCグループでは、上位から(1)データサイエンティスト、(2)ビジネスデータプランナー、(3)データリテラシーの3つに区分している(図4)。データサイエンティストは、データマネジメント部など専門部署に所属し、「高度なデータ分析による業務の高度化や付加価値の創出を図る」(江藤氏)のが役割だ。

図4:SMBCグループにおけるデータ活用人材の3区分と役割

 ビジネスデータプランナーは、業務・商品企画部署に所属し「データを活用したビジネス企画の推進を図る」(江藤氏)人材。データリテラシーは全従業員が対象で、「基礎的な仮説検証の思考やデジタルツールスキルの取得により、日常業務へデータ活用の実践を図る」(同)ことが求められている。

 なかでも「ビジネスデータプランナーの育成に注力している」と江藤氏は話す。「データサイエンティストやデータリテラシーを橋渡しする役目もあり、データ活用を企画するためにはビジネスへの見識が求められるからだ」(同)。育成策としては、「知識の詰め込みではなく、実際の業務課題を用いた研修など、より実務に即した施策を講じている」(同)という。

 新卒採用も強化している。特にデータサイエンティストの確保に向けてはインターンシップを実施する。「データの分析からビジネス企画までを一貫して体験することで、銀行業務全体をつかんでもらう狙いがある」(江藤氏)とする。新卒採用のコースとして「データサイエンスコース」を用意した。「データマネジメント部へ配属し、若いうちから専門性を強化していく試みだ」(同)という。

 「データそのものは、貸借対照表には計上されないが、価値の高い企業資産である。AI技術を掛け合わせることで、その価値がさらに増大し、ひいては企業の競争力を左右するものになると確信している」と江藤氏は大きく力を込めた。