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SMBCグループ、AI・データの活用で現場の可視化や新サービス開発を加速

三井住友フィナンシャルグループ/三井住友銀行 データマネジメント部長 江藤 敏宏 氏

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2023年10月5日

三井住友フィナンシャルグループは、2023年3月に中期経営計画を策定した。その実現手段の1つとしてデータマネジメント部は、AI(人工知能)技術とデータの活用を掲げる。データマネジメント部長の江藤 敏宏 氏が「Salesforce World Tour Tokyo」(主催:セールスフォース・ジャパン、2023年7月21日、22日)に登壇し、データ分析におけるダッシュボードの活用や生成AI技術の導入検証などの現状を語った。

 「日本企業がこれまで頼ってきた“勘と経験と度胸”にデータを掛け合わせることで新しいビジネスに向けたDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、グループ全体の市場競争力を強化したい」――。三井住友フィナンシャルグループ/三井住友銀行 データマネジメント部長の江藤 敏宏 氏は、同グループが取り組むDXについて、このように語る(写真1)。

写真1:三井住友フィナンシャルグループ/三井住友銀行 データマネジメント部長の江藤 敏宏 氏

 三井住友フィナンシャルグループ傘下で、銀行やリース会社、証券会社などを抱えるSMBCグループは、その顧客数は法人が約300万社、個人が約4300万人である。2023年度から3カ年の中期経営計画では、基本方針として(1)社会的価値の創造、(2)経済的価値の追求、(3)経営基盤の格段の強化を掲げている。江藤氏は、「いずれの方針の実現に向けてもAI技術やデータの活用が欠かせない」と強調する(図1)。

図1:中期経営計画の3つの基本方針の実現にはAI・データの活用が不可欠だとする

 グループ内でAI・データの活用を推進するのが、江藤氏が部長を務めるデータマネジメント部である。2016年の設立で、現在は60人ほどが在籍する。「データの専門組織」(江藤氏)として大きく、(1)各事業領域における活用支援と、(2)社内のインフラ基盤やツールの導入・整備に取り組んできた。

総合金融サービス「Olive」や生成AIの業務活用を実現

 事業領域における活用支援では、「ビジネスモデルの変革や、経営管理の高度化といったテーマ別にユースケースが蓄積してきている」と江藤氏は話す。ビジネスモデルの変革に向けた取り組みの一例が、ホールセール(法人取引)領域での営業支援情報を提供するダッシュボードの開発である。

 ホールセールの営業担当者は顧客との応対時、さまざまなデータを参照しながらディスカッション資料などを作成している。だが、その対応には「顧客の課題解決につながる提案に向けて、その糸口を探すのに非常に時間がかかっていた」(江藤氏)

 そこで、財務など顧客の属性データや、入出金といった取引・契約データなどを一元的に分析することで、顧客の課題を抽出・推定する。同業他社での成約事例や新商品の情報、顧客の財務指標や取引状況など最新のトレンドや変化も取りまとめる。江藤氏は「最新データの参照によりディスカッション資料の精度が高まった」と、その成果を強調する。

 個人を対象にするリテール領域での一例が、2023年3月にサービス提供を開始した総合金融サービス「Olive(オリーブ)」だ。銀行口座やカード決済などに関する情報をモバイルアプリケーションから一元的に管理できるようにした。2024年春にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のポイントプログラム「Tポイント」と統合する予定の「Vポイント」をテコに事業領域の拡大を目指す。

 具体的には、グループ会社やパートナー企業とともに「購買データやマーケティングデータなどの非金融データと金融データの連携を図り、新規を含めた顧客基盤を拡大することで、5年後にはポイントプログラムによる一大経済圏の形成を目指す」と江藤氏は力を込める。

 生成AI技術の活用も始めている。業務適用に向けた実証実験を2023年4月に開始し、同年7月から銀行全体で利用している。すでに「文章要約機能による資料作成や、プログラミングに不慣れな従業員に向けたコード生成で活用が進んでいる」(江藤氏)という(図2)。

図2:生成AI技術を2023年7月から業務に利用している

 SMBCグループではセキュリティに配慮し、情報が外部に流出することがないよう「Azure OpenAI Service」(米Microsoft製)を活用し、社内環境上で最新モデルを利用している。現時点では、業務効率化や生産性向上につながる利用が中心だ。

 今後は、金融分野の専門用語や法令・規制などを容易に参照できるような仕組みの構築や、コンタクトセンターにおける顧客への回答の自動作成などにも取り組みたい考えだ。江藤氏は、「取引先企業に向けた業務効率化のための新サービスの開発も進めたい」とも話す。