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JFEスチール、製鉄所の自動操業を目標に品質・製造データを一元管理する基盤「J-DNexus」を稼働

「Cognite Atlas AI Summit in Tokyo」より、JFEスチール DX戦略本部 DX企画部の愛甲 貴広 氏

森 英信(アンジー)
2024年10月23日

JFEスチールは2024年9月12日、製鉄所の操業にかかるデータを一元管理するためのクラウド基盤「J-DNexus」の運用を開始した。同社 DX戦略本部 DX企画部 主査の愛甲 貴広 氏が「Cognite Atlas AI Summit in Tokyo」(主催:ノルウェーCogniteの日本法人、2024年9月12日)に登壇し、J-DNexusの概要やデータ活用などについて説明した。

 「製鉄所全体で操業の最適化を図るには、複雑な製造工程の全てにおいて製品に関するデータを紐づける必要がある」−−。JFEスチール DX戦略本部 DX企画部 主査の愛甲 貴広 氏は、JFEスチールにおけるデータ管理・活用の考え方を、こう説明する(写真1)。

写真1:JFEスチール DX戦略本部 DX企画部 主査の愛甲 貴広 氏

積極的なデータ活用により競争優位を獲得する

 JFEスチールは2003年、NKK(日本鋼管)と川崎製鉄が統合して発足した。JFEという名称には、鉄鋼とエンジニアリングの会社を示す「Japan Iron(元素記号:Fe)Engineering」と、未来志向を示す「Japan Future Enterprise」の2つの意味が込められているという。

 同社の2023年度の粗鋼生産量は2345万トンで、国内2位、世界では13位の規模である。生産拠点は、東日本製鉄所(千葉市・千葉地区、川崎市・京浜地区)、西日本製鉄所(倉敷市・倉敷地区、福山市・福山地区)の一貫製鉄所と、仙台製造所(仙台市)、知多製造所(半田市)の4つ。各拠点の特性に応じて、薄板や厚板、形鋼、棒鋼、鋼矢板、レール、電磁鋼板、線材、鋼管といった製品を生産している。

 鉄鋼製品の製造は、石炭と鉄鉱石を高温で加熱しコークスと焼結鉱を作るところから始まる。それらを高炉に投入し、還元反応により銑鉄にした後、転炉で不純物を除いた鋼を製造する。冷却・固化した後、圧延機で薄く伸ばして熱延コイルを作る。こうした多数の工程での形状や品質の作り込みを経て最終的な完成品になる。

 製造設備は「非常に大規模かつ精密だ」(愛甲氏)。高炉は、高さ100メートル、容量5000立方メートル、内部温度は2000度を超える。転炉では400トンの溶鋼の成分をPPM(100万分の1)単位で調整し、圧延設備は時速100キロメートルで鋼板を作り出す。「こうした設備の能力が製品の品質や生産効率を左右する」(同)わけだ。

 そのJFEスチールはDX推進ビジョンに「常に新たな価値を創造し、顧客とともに成長するグローバル鉄鋼サプライヤー」を掲げる。同ビジョンの下、DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略として「積極的なデータ活用を通じた競争優位の獲得」を目指している。

 同社CEO(最高経営責任者)の広瀬 政之 氏は2024年4月の就任挨拶の中で「収益力を上げる重要なキーワードの1つがDXだ」と強調。これまで製造部門を中心に進めてきたCPS(Cyber Physical Systems)の導入やロボティクスによる労働生産性向上に加え、全社的にデジタル技術を活用し、業務改革を積極的に進めていく方針を示している。

 DX戦略本部は2024年に新設された。データサイエンスの活用部門、IT部門、研究部門などを統合し、「DXにかかる戦略立案から開発、全社展開、構築、保全、人材育成までを一体的に推進する役割を担っている」(愛甲氏)

CPSを基盤に「インテリジェント製鉄所」を実現する

 DX戦略本部が中心になってJFEスチールが目指すのが「インテリジェント製鉄所」だ。「インテリジェント製鉄所」はCPSを基盤に、製鉄所の仮想プロセスと実プロセスをリアルタイムに融合することで「自ら学習し自律的に最適自動操業を行う」(愛甲氏)というものである(図1)。

図1:JFEスチールが目指す「インテリジェント製鉄所」の概念

 その実現に向けて、各種センサーによって収集される製造現場の操業データや製品データ、現場のノウハウをビッグデータとして収集。それを高性能コンピューティング(HPC:High Performance Computing)でモデリングし、データサイエンスやAI(人工知能)技術を活用することでサイバー空間に仮想の製造現場を再現する。

 仮想プロセスでは、異常の検知や予知、仮想実験が可能になる。その結果を実際の現場にフィードバックし、操業のガイダンスや制御により、製造の効率化と最適化を図る。ビッグデータに基づく学習により、常に最適な自動操業が可能になる。その効果について愛甲氏は、「品質向上や生産性向上、生産現場における安全・安心の強化につながると考えている」と強調する。